壱
□寒空の下で
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「クリスマス・イブの予定だと?」
部活の帰り道、斎藤は思わず尋ね返した。
「はい」
そう臆面なく言い切ったのは、同い年で剣道部のライバル、そして恋人という立場にある男、沖田総司。
「折角部活もお休みなんですし、どっか遊びに行きません?」
「何が楽しくてクリスマス・イブに男二人で出掛けなきゃならねぇんだよ。
藤堂も一緒に三人で出かけるならまだ許容範囲だが」
斎藤は溜め息ながらに言った。
吐いた息が白く曇るのを見て、それもそれで痛々しいな、と思い直した。
「でもクリスマス・イブは恋人の日じゃないですか。
平助君も一緒に三人で遊ぶのもいいですけど、イブくらい二人で居たいんですよ!」
そうごね始める沖田に、斎藤はもはや諦めたように溜め息を吐き出した。
斎藤は夕日の中を少しゆっくりした足取りで歩いていた。
結局今日、即ち十二月二十四日は、沖田総司と過ごすことになってしまっている。
かなり強引に決めつけられた約束だが、その性格上反故にはできないし、そうそう不本意でも無い。
しかし、それを素直に認められるような性格では無く、せめてもの抵抗は、待ち合わせ時間ぎりぎりに待ち合わせ場所に到着することくらいだった。
待ち合わせ時間は午後4時。
朝の9時と沖田は言ってきたが、どこに行くわけでもないという理由からその案は却下となった。
待ち合わせ場所はいつも帰り道に通る公園で、沖田は既に待っていた。
寒さ故か手を擦り合わせて息を吹きかけている。
微かに胸が痛んだのを自覚して、息を吐き出した。
沖田が不意に斎藤の気配に気づいて斎藤の方を向き、小さく手を振った。
斎藤がその隣に立つと、「こんにちは」と笑って言った。
「楽しみで楽しみで、朝練並の時間に目が醒めちゃったんですよ」
朝練並だとすると、沖田の起床時間は四時半頃ということになる。
「遠足前の小学生かお前は」
「だって、楽しみだったんですよぉ」
にこにことだらしなく顔を緩めて沖田は笑った。
「さ、行きましょう」
そう笑って、沖田は斎藤の手首を掴む。
手を握っては違和感を周りに与えてしまうことになってしまうため、沖田が編み出したデートの際のスキンシップ。
人通りが多くなると離されてしまう手ではあるが、冷たいはずの手にどこか温かさを感じて、斎藤はどこかほっとした。
そして、微かに染まる顔をなんとか隠そうと微かにそっぽを向いた。