side:cloud 1/7
「俺がその子の代わりになってあげようか」
そう言って、何を突拍子もない事を言ってるんだと頭の隅で思う。
夜中に戻ってきたザックスはどうやら目当ての女の子をお持ち帰り出来なかったらしい。
「あとちょっとだったのに」と嘆くザックスを見て痛む心臓の意味を知ったのはいつだったか。
同室になったお陰でザックスと知り合う事が出来た。
けれど同室の所為で夜遊びが激しい事を知った。
首筋に残る鬱血の痕や、背中に走る爪痕。
情事の痕を目にする度に自分のザックスに対する気持ちが友情でも思慕でもないと思い知らせる。
それでもこの部屋で、一緒に居られる事時間が大切で。
話せる事が嬉しくて。
微温湯みたいで心地好いこの時間を自分から手放せる事なんて出来なかった。
でももう、今日でおしまい。
「俺、結構具合いいらしいよ」
「…クラウド?」
こっちを見ているザックスが眉を顰める。
「ザックスなら、タダでいいよ」
こんな事言う俺をアンタは蔑むかな、哂うかな。
手馴れたように、映っているだろうか。
気持ち悪いと罵って突き放す?
何冗談言ってるんだと笑い飛ばす?
突き放して欲しい、笑い飛ばして欲しい。
ふたつがせめぎ合って眩暈がする。
ほんの数秒の沈黙が、永遠にさえ感じる。
「……ザッ」
クス、と沈黙に耐え切れず呼ぼうとするが、重なったザックスの言葉に遮られ叶わなかった。
「じゃあ、代わってもらおうかな」
そう言ったザックスに腕を掴まれて引き寄せられる。
「ほら、ベッド行こうぜ」
思ってもみないザックスの答え。
突き放されるでもなく、笑い飛ばされるでもない。
ああでも、ザックスに触れてもらえるならそれでいい。
代わりになると言う事がどれだけ残酷で痛みを伴うのか、俺はまだ知らなかった。