キリ番小説

□手を差し伸べて
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もう十年たっただろうか?
初めて会った時、オレはうまく気持ちを伝えることができなかった。

・・・でもあいつはそんなオレに手を差し伸べてくれた。昔も・・・今も。


僕は両親が死んでからお祖父さんに預けられていた。でも、そのお祖父さんも・・・死んだ。
それから少しして父さんと母さんの知り合いだっていうおじさんが僕のところへ来たんだ。そして・・・
「さぁ、着いたよ。今日からここがきみの家だ」
おじさんに連れられて僕はスールズの村にきた。初めてだというのに・・・なぜか懐かしさを感じる。
家に入ろうとしても、体が動いてくれない。そうしてると、中から子供の声が聞こえてきた。
「お父さん、お帰りなさい!・・・あれ?」
僕は声のした方に顔を向ける。――女の子だ。肩まで伸ばしてある蜂蜜色の金の髪は外から入ってくる風に揺れている・・・エメラルドの瞳の女の子だった。同じ年の子供だろうか?
「この子はね、今日から私たちの家族になる子供だ。昨日は話しただろ」
「この子?ねぇ、お名前何ていうの?」
突然声をかけられて、僕は動揺しすぎて声を出すことができなかった。
「恥ずかしがらなくても大丈夫だよ」
そうは言われても人とはあまり話したことがなかったから何を話せばいいのかわからない。
下を向いてると目の前に手が差し伸べられる。顔をあげると・・・女の子が僕に笑いかける。
「私はね、クレアっていうの。あなたの名前は?」
なにも知らない僕に、クレアと名乗った女の子は僕に手を差し伸べてくれた。
体の底からなにか、うれしいものが込み上げてくる。
僕は、クレアの手に自分の手を重ねてこう言った。

「・・ぼ、僕、ヴェイグ・・・」

それが、彼女との出会いだった。


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