すれいやあず

□月の雫
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一日の仕事を終え、獣人2人と食事を済ませ、お風呂に入ったフィリアは、自室へと戻った。
温めたミルクの入ったマグカップを、自室の隅にある小さなデスクの上にコトンと置く。
薄いピンク色の寝巻に着替えるとフィリアは椅子に腰をかけ、”明かり”を唱え、分厚い本を開きそこへ目を落とした。
寝る前に本を読むのはフィリアの習慣だった。
読む本は主に、骨董に関するもの。
この分厚い本も、街の図書館で見つけて、借りてきたものだ。

しかしこの日フィリアは、すぐにぱたんと本を閉じ、読むのを止めてしまった。
顔をすっと上げ、小さく息を吐く。

「そこに居るんでしょう?」
そう言うとフィリアは、窓の方へ顔を向けた。
「いやぁ〜、バレちゃいましたね。
 流石はフィリアさん。」
聞き慣れた男の声がする。
フィリアはさっとカーテンを開けた。
窓の外には、獣神官ゼロスがぷかぷかと浮いていた。
「何を言ってるんですか。
 気配を消す気など無いくせに。」
そう言いながらフィリアは窓を開けた。
「お久しぶりですね、フィリアさん。」
ゼロスはにっこりと笑う。
フィリアはゼロスを少し、睨みつけるように言った。
「最近姿を現さないと思ったら、突然こんな夜中に来たりして、一体何の用です?」
「何って、卵の様子を見に来たに決まってるじゃないですかぁ。
 フィリアさん大丈夫ですか?卵焼きになんてしてないですか?」
「…!する訳ないでしょ!!
 こんな時間に人の家を訪問するなんて、非常識です!」
ゼロスはぽりぽりと頬を掻いた。
「いやぁ、僕にも色々あるんですよ。
 獣王様ったら人使いが荒いんです。
 仕事で立て込んでたものですから、こんな時間じゃないと来れなくて。」

――ゼロスは普段、何をやっているんだろうか。
魔族の仕事など、世界平和の為ではないことは明白だ。
そう考えるだけで、フィリアの胸は酷く痛んだ。
自分の知らないところで、きっと恐ろしいことを行っているゼロス。
今の自分は、彼とこうして話すことしか出来ない――。
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