すれいやあず

□夏の夜の [下]
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フィリアの家では獣人達が食事を終えたところであった。
食事はなかなか上手く出来た。
夕食の支度も二人でやればなんとかなるもんだ、と満足げにお茶を飲んでいたが、台所はぐちゃぐちゃである。
心地よい満腹感にリビングでまったりとしていると、突然二人の間に黒い人影がが現れる。
「ゴキブリ!」
「デカいゴキブリだ!!」
二人はフライパンやら鍋の蓋やらを持って身構える。
「あなたたち……滅ぼされたいんですか……。」
ゼロスが口元をいくらかぴくつかせると、獣人達は顔を青くした。
冗談半分に、いつものフィリアを真似て言ってみたのだが、止めておけばよかったと後悔する。
やはりこの男は恐ろしい。
なんといっても自分たちの敬愛する男と互角に戦える程の力の持ち主である。
この男に本気で食ってかかれる者など、この家の主くらいだ。
ふと、グラボスがゼロスの腕の中に居る少女に気付く。
「あれ?
 そいつはミラじゃねーか!」
「ホントだ。
 ミラ、姐さんと祭り、行った。
 なんでゼロスと居る?」
「この方怪我してるみたいなんで、ここで寝かせておいてあげてもらえます?」
ゼロスは腕の中で気を失っているミラを、側にあったソファーの上に横たわらせた。
「何があったんだ?」
グラボスが怪訝な顔をする。
「実はかくかくしかじかで、フィリアさんが監禁されちゃったらしいんですよねー。
 全くそそっかしい方ですよねぇ。」
「かくかくしかじかで分かるかっ!
 どういうことだ!?
 姐さんに何があった!?」
へらへらと笑いながら言うゼロスに、グラボスは間髪を入れずに突っ込んだ。
「それはそちらの方が目を覚ましたら聞いて下さい。
 ……説明するのが面倒くさいんで。」
ゼロスが最後に付け足すようにボソッと言うと、
「何か言ったか?」
とグラボスが更に眉間にしわを寄せる。
ゼロスは「いいえ。」と繕い笑った。
「姐さん、さらわれたのか!?
 相手、どんな奴!?
 俺、助けにいく!!」
そう言って爆弾の準備を始めるジラスに、ゼロスは苦笑いしつつ止めに入った。
「僕が行きますからっ。」
そんな物を街中でぶっ放されたら、後々面倒だ。
ゼロスはとにかく、この街で目立つ行動は控えたいと思っていた。
何かの拍子に、力ある者に古代竜の存在が知れてしまうかもしれない。
獣神官がこの家に出入りしているということも。
それは極力避けたいのだ。
するとジラスの目が輝いた。
「お前、姐さん助けてくれるのか!?
 良い奴!」
「何か企んでるんじゃねーだろうな?
 姐さんに何かしたら承知しねーぞ!」
グラボスがゼロスを睨みつけると、彼は困ったように笑った。
「疑われても何も出ませんよ。
 こちらも仕事ですからね。
 フィリアさんに何かあると困るんですよ。
 古代竜の卵の育成者なんですから。」
グラボスは何も答えなかった。
「じゃ、僕ちょっとこれからフィリアさんのお迎えに行って来ますね。」
ゼロスはそう言って姿を消した。
「姐さん、頼んだぞ!」
ジラスはゼロスの消えた方向へ向かい手を振った。
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