すれいやあず

□夏の夜の [上]
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「フィリアさん、私ね、彼が出来たの……。」
ミラは頬を赤らめ、もじもじとしながらそう言った。
今はお茶の時間。
近所に住むフィリアの友人ミラが、いつものように遊びに来ていた。
ミラは14歳のまだ幼さの残る少女だ。
小さくて華奢な体つきに、ぱっちりとした目、肩で切りそろえられたツヤツヤの髪、いつも元気いっぱいに笑う、とても可愛らしい女の子。
どことなくアメリアに似ているなとフィリアは思っていた。
そのミラの恥ずかしそうなしぐさが可愛くて、フィリアは思わず微笑んだ。
「まぁ!それは良かったですね。
 おめでとうございます!」
ぽんと手を合わせて喜ぶフィリア。
正直なところ、フィリアは男女が付き合うとはどういうことか、いまいちよく分かっていない。
頭では分かるのだが、ついこの間まで巫女をしていたフィリアには、そういったことは無縁の世界。
まともに恋愛をしたことは無いし、もちろん誰かとお付き合いをした経験などもなく、どうもピンと来ない。
だが、男女の純粋な恋愛に憧れはある。
このミラの嬉しそうな様子を見て、やはり嬉しく、幸せなことなのだとフィリアは思った。
「どんな方なんです?」
フィリアの問いかけにミラは嬉しそうにパッと顔を上げる。
「あのね、アランって言うの。
 この間私がおつかいの途中で道に荷物をぶちまけちゃって……それを拾ってくれて、それで知り合ったの!」
「どこかで聞いた話ですね……。」
苦笑するフィリアにミラは構わず続ける。
「とっても優しくて、気が利くし、背も高いし、顔も結構良くて素敵なのよ!
 あ、でも、フィリアさんの彼にはちょっと劣るかな。」
「何を言ってるんですか?
 私に彼なんていませんよ。」
フィリアは大きな目を丸くする。
「やだ、フィリアさんたら照れちゃって!
 あの神官様よ!
 この間も二人が並んでるところを見て、やっぱり素敵だなぁって思ったわ。
 絵になるっていうか……だから私もフィリアさんに憧れて素敵な彼氏が欲しかったのよ!」
両手で頬を抑え「きゃあ!」と照れて笑うミラに、フィリアは言葉が出なかった。
何度も違うと言っているというのに……。
神族である自分が魔族と付き合うなどあり得ない、聞いたこともない話だ。
この誤解はいつまで続くのだろうか。
フィリアは小さく溜息をついた。
否、そもそも誤解が解ける日は来るのだろうか?
ゼロスは明らかにこの誤解に拍車をかける行動をとっている。
そうやってフィリアをからかい、楽しんでいるのだ。
フィリアは拳を握るとわなわなと震わせた。
「……あのゴキブリ……ッ。生ゴミ……っ。変態……っ!」
小声で何やらひとりごちているフィリアに、ミラは不思議そうな顔をする。
「フィリアさん……?
 どうかしたの?」
「え!?ああいえ!なんでもありませんっ!」
「だからね、あの神官様と比べちゃうとちょっと見劣りするかもしれないけど、でも私にとっては彼が一番素敵な人なの。」
幸せそうに話を続けたミラに、フィリアは
(そりゃそうです!
 ゼロスは生けとし生きる者の天敵っ。
 あいつと比べたら全ての人間が素敵に決まっています!)
と心の中で呟いた。

「あ、そうだ、フィリアさん明日の夜空いてる?」
ミラは思い出したようにぽんと手を叩いて言った。
「明日の夜ですか?
 ええと……明日は新しい商品の搬入も無いですし、やることは晩御飯の支度くらいでしょうか……。」
「じゃあそれ、キャンセルして!
 グラボスさんもジラスさんも晩御飯くらいなんとか出来るでしょ?」
「何かあるんですか?」
「フィリアさん知らないの?
 ……あ、そっか、まだ越してきて1年経ってないもんね。
 明日は街で夏祭りがあるのよ。
 露店もいっぱい出るし、中央広場のステージでは出し物もあるし、結構おっきいお祭りなんだから!
 明日ね、アランと一緒に行く約束してるんだけど、彼、友達連れてくるんだって。
 人数多い方が楽しいし、あたしも友達連れて来たらって言われてるの。
 だからフィリアさんも一緒にいこう!」
すると会話が聞こえていたらしい獣人2人が顔を出す。
「いいっすね!
 姐さん行ってきて下さいよ!。」
「姐さん、いつも頑張ってる!
 息抜き、してくるといい!」
「ほら!二人ともこう言ってくれてるし!
 ねっ!ねっ!」
言いながらフィリアの手を取りぶんぶんと振るミラに、
「そうですねぇ……折角ですからご一緒させていただこうかしら。」
とフィリアは微笑んだ。







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