短編(一期ネタ)
□おはよう
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それは一日の始まりの挨拶。
その言葉がないと始まらない。
「ん……?」
柔らかな陽射しに包み込まれる。
気持ちがよくていつまでも眠っていたい。
「起きて、朝だよ」
その陽射しと同じように柔らかな声がルルーシュを包み込む。
いつまでも聞いていたい声にルルーシュはベッドの中で丸まる。
「起きてよね」
いつものことだと起こそうとする相手は苦笑する気配がある。
それくらい毎日繰り返していることなのにすぐに起きることが出来ないのは、起こそうとしている声が更に睡眠を促すからだ。
「ルルーシュってば」
柔らかな黒髪を撫でれば薄っすらと目が開く。
アメジストの輝きが覗く。
早朝にしか見ることが出来ない潤んだ綺麗な宝石。
それを見ることが出来るのは彼を起こす役目をスザクの特権だ。
「ス、ザク……?」
「うん、おは……っって、ルルーシュ」
手を伸ばしてくるから起こして欲しいのかと手を握り返せば手を引っ張られる。
力なんてないはずなのに何故かその力を拒めない。
そのままベッドに引き上げられる。
「ちょっ、ルルーシュ」
「一緒に寝ろ」
シーツを引き寄せてスザクを抱き締める。
「る、る、る、る、るるーしゅ?」
「うるさい」
寝起きのルルーシュは低血圧で機嫌も悪い。
今のルルーシュには言葉は通じない。
しかしこのままでいるわけにはいかない。
起きたときに何も覚えていないルルーシュは今の状況を見れば怒る。
怒るだけならまだマシだ。
きっとキレて暫くは口も聞いてくれない。
それだけは何としてでも阻止しなければいけない。
「ルルーシュ、起きてってば!」
スザクの暖かい体温が気に入ったのかルルーシュはスザクの身体にしがみ付く。
だがスザクからすればたまったものではない。
少しでもルルーシュから離れようとするのだが、しがみ付かれていてそれも叶わない。
「ルルーシュってば!」
何度も肩を揺するが再び深い眠りについてしまったルルーシュは起きる気配はない。
(仕方ないな……)
もう暫くは起きることはないだろうと身体から力を抜く。
まだ朝の挨拶は出来ていない。
起きたルルーシュに言いたいから言えないでいる。
『おはよう』
それが一日の始まりの言葉だから……。
数時間後。
「おい……」
ルルーシュに抱き締められそのまま一緒に眠ってしまったスザクは低い声に起こされる。
(しまった! 殺される)
その声が誰か分かった瞬間スザクは飛び起きる。
すでに先に目を覚ましていたルルーシュは冷たい視線を向けてくる。
今の状況が分からないのだろう。
とても冷たい気配を纏っている。
「ルルーシュ……」
「やあ、スザク」
寝起きと思えないほどにこやかな笑みを浮かべるルルーシュにスザクの背中には冷たい汗が流れる。
笑っているのに笑っていない。
目が笑っていない。
(こ、こわい……)
ルルーシュは優しい。
ナナリーに関しては……。
それ以外の相手で気に入らない相手には驚くほど容赦はない。
それが恋人であっても……。
(殺されるかも……)
「これはどういうことだ?」
もちろん寝ぼけてスザクをベッドに引き入れたことなどルルーシュは覚えていない。
だからこそ怒ることが出来るのだが……。
「えっと……」
「何故お前がベッドの上にいる。というか一緒に寝ているんだ?」
穏やかな一日の始まりのはずなのに命の終わりのような感じがする。
「ルルーシュっ、お、落ち着いて!」
「言い訳は聞かない。というか、死ね」
問答無用でベッドから蹴り落とされる。
ルルーシュは誰かと一緒に寝ることをよしとしない。
誰かが隣にいるのに気付かず寝てしまう自分が許せないらしい。
「うわっ、ちょっ、ルルーシュ!」
手加減……もとい足加減なく蹴り落とされスザクは無残に床に倒れ込む。
それを無視してルルーシュは部屋を出て行こうとする。
「あ! ルルーシュ!」
「……なんだ?」
「おはよう」
これだけは言わなければとスザクは無様な格好のまま朝の挨拶をする。
しかしそれにもちろん返事はない。
冷たい視線を向けただけでルルーシュは行ってしまう。
「今日も返事はなしか……」
ルルーシュからも『おはよう』の言葉が欲しくて毎日言っているのにルルーシュから返事が返ってきたことはない。
いつになったら返事はもらえるのだろうか。
それよりもルルーシュの怒りを解くことのほうが先決だろう。
そうしなければスザクに明日はない。