「マツバくん!」
窓際の席で優雅に読書をしている金髪の彼のもとに駆け寄る。
今日は、周りを取り囲む女子の皆さんがいらっしゃらない様だ。
「ん?」
「マツバくんの得意科目って何?」
「え、得意科目?」
不意打ちな質問に瞳を丸くするという予想通りのリアクションに満足しつつ、同じ質問を繰り返す。
「うん。で、得意科目は?」
「突然どうしたんだい?」
「いや、特に理由はないんだけどね。」
「うーん、得意なのは古典かな。」
そういえば古典のテストの点数をこっそりと盗み見た時、その素晴らしき高得点に目を疑ったっけ。
私の3倍だよ、3倍。
「うらやましい。」
「苦手なのかい?」
「そりゃあもう。補習参加率100%だから。」
「あはは、君は面白いね。」
「笑い事じゃないから、本気で。」
爽やかな笑顔が私の心の傷を抉っているということに恐らく彼は気付いていないだろう。
「分からないとこがあったら教えてあげるよ。」
「うぇ!本当に?!」
「うん。僕で良ければ。」
「あ、ありがとう!」
裏返った声すら気にならないほど私の心は歓喜に満ちていた。
このルックスに優しさ、女神も恋する目映い笑顔。
ファンクラブが出来ても可笑しくはないだろうと染々思う。
「あ、一つ言い忘れたけど、」
読みかけであろう本がパタンと音を立てて閉じられる。
その本を閉じた張本人は椅子から立ち上がり、「背高いなー何センチなのかな?」と暢気なことを考える私の前髪をかき上げた。
「僕の教え方は甘くはないから、覚悟しておいてね。」
耳に響くは、甘い声
(「よろしくお願いします、マツバ先生!」)
(「うん、こちらこそ。」)