すきなんだ、すきなんだ

□偶然
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ただ周りのみんなが
島なんかみえないよ、って
言ったから


怪しいっちゃ怪しいけど
私は新しいことがしたくて


そんな軽い気持ちで踏み入れてしまった。






入学式を終え
担任にうながされるままに
教室に入るなり「漢字を一字記せ、」なんて。




(大体戦いってなんなのよ〜)




はあ、とためいきをつく。
入学式でも思ったけどなんかみんな空気重い。
机を鉛筆で叩く音があちこちできこえる。
なんでみんな書けるの、よ。



(・・・ん?)




特に意識なんてしてはいないのだけれど。
なぜか私はその男子と目が合ってしまったのだ。
帽子をかぶっている男の子。
帽子の下から見える目は大きくて…なんか私よりもかわいい顔してない、この人。



もう書けたか、と担任が急かす声に
すぐ逸らしてしまったんだけど。


書かないと、とあせった私は
学校に来るときに見かけた桜の木を思い出した。


(もう、なんでもいっか!)




そう思って私は大きく「桜」と書いた。






「戦う」
意味が分かったのはそれから5分とかからなかった。


現に今、私は戦わなければ死ぬ状況にいるのだから。




「…なによ…これ……っ!」



私は教室に残っていた数人の一人で。
残りの人間は化け物によって―…

もう 床に横たわっていて。





「…っなんなの、来ない、で…!」



文字を嗅ぎ付けるという
化け物が3匹、私を壁に
追い詰める。

文字。
私の右手首の裏側に「桜」という字が浮かび上がる。



「っこんなので、どう戦えっていうのよ…!!」





もうだめだ、
そう思ったとき
助けてくれたのは君だった。

戦い方を教えてくれたのも、君。





目が合ったのは偶然だったのかな、






「平気か?!」




何が起こったか分からなかった。
化け物に点が浮かび上がったかと思ったら、
帽子の男の子が教室の椅子をその点に投げ付けた。
その化け物は私の足元に。



「…ッ…なに、が…」




「怪我とかした?」



男の子は私の肩を掴んで、目線を合わせて尋ねた。
そこで意識がはっきりしてきた。



「…へ、いき。ありがとう…」



私が大丈夫なのを
確かめると、男の子は「よし!」と言って笑う。






「俺は美濃由利。とにかくこっから出ないとな。説明はそのあと」







絶対忘れちゃいけないと
思った、


美濃由利




頭の中で暗誦して、この名前を忘れないことを誓う。



目が合ったのも
助けてくれたのも
戦い方を教えてくれたのも

全部 君 で



(偶然なのだろうか?)
 

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