「―あなたは、あなた、は、少し、変わったように見えます」
搾り出したその声は確かに目の前の人に届いているはずだった。
目の前の人は薄く微笑んでゆっくりと瞬きをして、千種、と俺の名前を呼んだ。
その一連が、まるで慈愛に満ちたような仕草と声が、糾弾であることを俺は知っていた。
「僕が、僕のなにかが、変わったと?」
微笑を口元に湛えたまま重たげに言葉を零して、その人は白い指を祈るように組んだ。
なにもない廃墟の中には剥き出しの鉄骨と朽ちかけのソファと優しいふりをした陽光だけが在った。泣きそうになった。
「なにが、あなたをそうさせたのですか」
思いがけず震えた声に、目の前の人はそっと瞼を伏せる。
遮断された赤と青を思うと、何故だか切なくなった。
「一体なにが、あなたを、」
「千種」
咎めるように呼ばれた名前に、堰切った言葉が止められる。
鋭い語調とは裏腹に、その人はいかにも優しいように微笑んでいた。
剥き出しの鉄骨、朽ちかけのソファ、優しいふりをした陽光、ああ、それから、
「おいで」
目の前の人はやんわりと俺を抱きしめて、何度も俺の名を呼んだ。ちくさ、ちくさ、ちくさ。
そうして、愛していますよと優しく優しく呪詛を吐いた。この人はちっとも優しくなんかないというのに。
「大丈夫、おまえも犬もクロームも、僕は全部愛していますよ」
愛されたいなどと傲慢なことは思わない。ただ神様のままでいてほしいだけ。
2010-03-06
「みんな」じゃなくて「全部」とか言っちゃうむくろさま
さりげなく骸ヒバ前提だったり