「やめたら、そんなの」

心底呆れた風に言い放つ彼女に、私は小さく首をかしげた。

やめたらどうなのと繰り返して、彼女は私の持つ有害を指差す。

ようやく合点のいった私はそっとかぶりを振った。

「放っといて、あたしの勝手でしょう」

はじめてこの味を知ったのはいつのことだったかよく覚えていないけれど、多分もうずっと昔の話なのだろう。

煙も口に広がる苦さも私はひどく嫌っているのに、体はもう毒に侵されてしまったから未だにこの有害を手放せずにいる。

似合いませんねと、いつだったか毒を摂取する私を見て笑ったのは赤と青の目を持つ男だった。

わたしが子供だからかしらと質問を投げたら、君は可愛いから、と男はあの時そう返した。

彼女ならきっとこの毒が似合う。美しい彼女なら。

長い睫を少し伏せて、どこか物憂げに毒を摂る彼女を想像して私の胸は高鳴る。

「あなたも一本どう?」

美しいもの見たさに薦めた毒には目もくれず、やめなさい、と彼女は再び言った。

「そんなものを吸えば大人になれるわけじゃないのよ」

彼女の長い指が私の鼻先を一瞬だけつつく。

「可愛い女の子に煙草は似合わないわ、ル・べべ」

そしてそれは幸福なことなのよと続けて、彼女は優しく微笑んだ。








2010-01-10

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