長編小説

□episode.3 touch me, hold me.
1ページ/13ページ


「お前は『立夏』じゃない!!
 あたしの立夏を返してよ」



 母さんが、また、俺を殴っていた。
浴びせられる罵声が激しい乱打に変わるのはいつものことだった。

 血の涙が流れる。薄い膜の瞼(まぶた)が切れたみたいだった。


お前は立夏じゃない、と。

生きている価値なんんてない、と。

死ねばいいのに、と。


 それでも今まで平気だったのは、清明が、誰よりもずっと側にいてくれて、延々と、優しく甘い言葉をかけ続けてくれていたからだ。
清明が、俺に生きている意味を与えてくれたから。
決められた名前、LOVELESS………その嫌な名前の意味は、愛ナシ。
愛されることのない俺を、唯一、愛してくれるのは清明だけだったのに。いなくなってしまった。

<いつか海に連れていってあげる。二人で暮らそう>

 期待した。そして、幻滅した。
その幻想のなかでは毎日、笑顔に満ち溢れていて、少しだけエッチなことをして、幸せになれると。
幸せになれるのだ、と、幻想を夢に見て、あられもない現実に泣き伏せる。













 生きる意味を俺に頂戴。

 頭に浮かぶのは、もう、過去形になってしまった清明の顔ではなかった。





 今、側にいるのは草灯。

 愛してくれるのは、草灯だけ。





next.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ