長編小説
□episode.3 touch me, hold me.
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「お前は『立夏』じゃない!!
あたしの立夏を返してよ」
母さんが、また、俺を殴っていた。
浴びせられる罵声が激しい乱打に変わるのはいつものことだった。
血の涙が流れる。薄い膜の瞼(まぶた)が切れたみたいだった。
お前は立夏じゃない、と。
生きている価値なんんてない、と。
死ねばいいのに、と。
それでも今まで平気だったのは、清明が、誰よりもずっと側にいてくれて、延々と、優しく甘い言葉をかけ続けてくれていたからだ。
清明が、俺に生きている意味を与えてくれたから。
決められた名前、LOVELESS………その嫌な名前の意味は、愛ナシ。
愛されることのない俺を、唯一、愛してくれるのは清明だけだったのに。いなくなってしまった。
<いつか海に連れていってあげる。二人で暮らそう>
期待した。そして、幻滅した。
その幻想のなかでは毎日、笑顔に満ち溢れていて、少しだけエッチなことをして、幸せになれると。
幸せになれるのだ、と、幻想を夢に見て、あられもない現実に泣き伏せる。
生きる意味を俺に頂戴。
頭に浮かぶのは、もう、過去形になってしまった清明の顔ではなかった。
今、側にいるのは草灯。
愛してくれるのは、草灯だけ。
next.