長編小説

□episode.5 ...or happiness?
3ページ/13ページ


「………ねぇ、なんで俺、未だ耳ついてるの...?」


 きゅ、と、抱きついた立夏は、草灯に聞いた。
いつものクセからか、耳がピクピクと震えていて、斜めに垂れ下がっている。

 不安で、哀しい時のクセだ。

 不謹慎ながらも、立夏のその可愛いさに、草灯はドキリと紅くなる。
愛しい人が不安で哀しんでいる時に、ドキドキしながら性欲をかきたてられるなんて。

 増してや、さっき、傷つけたのは自分なのに。

 不安にさせたのは自分なのに、もっとこの顔が見たい…………もっと、不安な、まるで縋りつくような、求める目で、見て欲しい。

 懺悔と欲望が交差する脳裏。
理性の空で天使が諭す。
魔性の都の悪魔が壊す。
耳元で聞こえる天使の声、心に囁く悪魔の甘い音。

天 使 ガ 諭 ス 。

悪 魔 ガ 壊 ス 。



悪 魔 ガ 壊 ス 。




「ねぇ……草灯、聞いてる?」



「えっ、あ……………あぁ、ごめん」





 ざわり、ざわり。

 迫ってくる欲望、持ちこたえる理性、本能が叫ぶ。
壊れる。壊れる。壊される。





next.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ