長編小説

□episode.1 dream
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「オカエリ、清明!」


 鍵を開ける音がしたと同時に、俺は急いで自分の部屋を駆け降り、帰って来た清明がいる、玄関へと走った。

 母さんは、そんな俺を見ると、決まって、なんだか安心したように安堵のため息をつき、自身の胸を撫で下ろしていた。
・・・・・・俺はちゃんと知ってるよ。母さんは少しも変なんかじゃない。

 清明は「ただいま」と言って、笑みを浮かべ、出迎えた俺の頭をなでてくれた。
これもいつものコトで、俺はこうやってなでてもらうためにいつも玄関まで走っていく。
優しく、温かい手で耳を触られると、なんだか気持ちよくて、ぴくんと背中が震えた。

 俺は清明が、すごく好きだ。
それこそ、清明のいない人生なんて、考えられないくらいに。


「……立夏、また母さんにやられたの?」


 あ、やっぱりバレた。
キレたのは唇の端だったから、血も出てないし、バレないかもって、思ってたんだけどな。

 清明はなんでも見抜いてしまう。
俺がどんなに隠しても、どうしてか分かんないけど、なんでも分かってしまう。

 考えてることも、分かってるのかな。
それはちょっと恥ずかしい・・・・けど、俺、清明にだったら、別にいいかなって思ってるんだ。
清明に隠し事なんて、絶対にしないから。


「うん・・・・でも、大丈夫だよ。全然平気」

「だめだよ、ちゃんと消毒しなきゃ」

 
 俺の言葉に困ったように頬を撫でる清明。

 微かな傷口の回りを親指で触ると、そこに優しくキスを贈ってくれた。

 清明は、よくキスをしてくれる。
ちゅって、まるで手で触れるような、優しいキス。
優しい言葉を紡ぎながら、優しいキスをしてくれる。
温かい指が、唇が、痛みを全て拭い去ってしまうような。




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