兄×弟+α

□秘恋が終わる時に
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「義務?何だよ、それ」

「っぼくがいなくなったら、貴方は無理にぼくの面倒を見なくていいんです!
可愛げのない弟の面倒を見るのはもう飽き飽きしたでしょう?
今みたいに無理してスキンシップを図ることなんて無いんです!ほら、早く離して下さい!」


今のアスベルの行動の意図が読めない。

読めないが、直感した。これは拒絶しなければ、と。

そうだ。きっとアスベルは義務的に自分とスキンシップを図ろうとしているんだ。

だから……だから、今ぼくを抱き締めているんだ。


自分が的外れな推測をしている事くらい、ヒューバートだって判っていた。

けれど、そう思い込まずにはいられなかった。そうでは無いと、取り返しのつかない位に期待してしまうから。

だからそう、まくし立てた。




「――お前、それ本気で言ってるのか?」

しかし、静かな、されど怒気を帯びたアスベルの声にヒューバートはまくし立てるのを止めて、びくりと身体を跳ねさせる。

こんな静かに怒るアスベルなんか見たことが無いからどうしたいいのか判らない。



そしてまた確信する、やはり的外れなまくし立
てだったのだと。



「あ……」

「ヒューバート。お前、今の本気で言ってんのかよ?」

「ひ、う……」

少し乱雑な言葉遣いで、低い無機質のように響くアスベルの声が、まくし立てたのを止めたことで静寂になった空間で冷たく響く。

静かに怒るアスベルに怯えて二の句が継げないヒューバートに、アスベルは、はぁと溜め息を吐いて、あのな、と先刻よりも柔らかいトーンで話し始める。

飴と鞭の使い方を忘れてはならない。

強がっているものの、明らかに怯えた様子を見せたヒューバートをこれ以上怖がらせる訳にはいかない。

自分は彼を怯えさせたい訳では無いのだ。



「(ああ、本当にこいつは……)」


鈍感だとヒューバートはアスベルに言うけれど、ヒューバートも大概鈍感だとアスベルは思う。

自分はお人好しな部類であるとアスベルも自覚はしているが、それでも嫌いな人物に好んで近寄ろうとはしないし、抱き締めようとも思わない。

確かにヒューバートはアスベルのとって実弟にあたるが、別に兄の義務感でヒューバートを近寄る真似なんてした事が無い。


弟としても人としても大好き――否、愛してると言った方が適切だろう――だから。

なのに、どうしてこいつは屈折した受け止め方はしてしまうのだろうか。

今、抱き締められているのを無理やりスキンシップを図ろうとしたと考えるなんて、お前だって相当な鈍感だと罵ってやりたい。



「俺はお前のこと、一度も面倒だとは思ったことなんか無い。むしろ、お前とまた一緒にいれて楽しいし、嬉しいよ。だって俺――」



――お前のこと好きだから。



先刻とは打って変わり、優しい声色でストレートかつ情熱的な言葉を口にしたアスベルにヒューバートは息を呑んだ。



え?今兄は何て言った?好き?誰に?―――ぼくに?



「……なっ……何馬鹿なこと言って……」

「失礼だな。俺は本気だ」

少しむくれた表情を浮かべながら、アスベルはぐいっと彼の背中に回してた片腕を伸ばして、ヒューバートの顎を持ち上げて、改めて彼と目線を合わせる。

変わらない射抜くような青色の瞳。
その目は偽りを知らないかのように真っ直ぐで真剣だった。


「でも、ぼくは男で……」

「判ってるよ」

「貴方の実弟で、貴方はラント領主で……」

「判ってる。なあ、ヒューバート。お前は?」

「え?」

「お前は俺のこと好きか?」

「なっ……」


真っ直ぐな視線に、真っ直ぐな言葉に、ヒューバートは思わず紅潮させた顔を背けようとする。

しかし、彼の顎を強く掴むアスベルの手がそれを許さない。
 
ああ、もう。おそらくアスベルは自分は早死にさせる気だ。
これ以上胸が高鳴ったらきっと死んでしまう。そう思う位に心臓が激しく高鳴って苦しい。


「なあ、どうなんだ?」

「っべ、別に……嫌いじゃないです」


顔をこれ以上無く赤らめながら、ヒューバートは小さな、本当に小さな声で返事をした。

何時からアスベルはこんなに自分の感情にストレートになったのだろう。

昔は素直では無かったのに、今の自分みたいに。

「うん。そうか」

小さな小さな声は至近距離にいるアスベルの耳に聞こえたらしい。

顎を掴む手を離してぽんとヒューバートの頭を撫でて、無表情を崩して嬉しそうな表情を浮かべた。


「ならきっと俺達大丈夫だ」

そう言ったアスベルはへにゃりとした情けない、けれど、とても綺麗な笑顔を浮かべていて、ヒューバートは熱くなる胸を抑えることが出来なかった。

これ以上、何も言うことも出来なかった。


アスベルの背中に縋るように、ヒューバートは震える腕を伸ばす。 

駄目だ。してはいけない。

そんなことは判っていた。

けれど、大丈夫だと言ったアスベルに縋ってしまう自分がを止めることが出来ない。



ああ、でももう駄目だ。

この人が好きだ。もう、止められない。


兄さんのことを『恋愛として好き』だった自分が蘇ってきてしまったから。





(秘められた恋が死んだその時に、)

(新たに生まれるは、恋を露にした愛)





End?
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