兄×弟+α

□おはようの挨拶を君に
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――珍しい事もあるものだ。ヒューバートが俺よりも先に起きていないなんて。
 


時刻は朝、場所は某宿屋の一室。

目を覚ました俺が隣のベッドを見るとすやすやと気持ち良く眠っている弟がそこにいた。

ヒューバートが俺より先に起きなかった事態に驚きつつも、7年振りに見たあどけない寝顔に思わずクスリと笑みを零す。



「(でも、もう起こさないとな……)」

幸せそうに寝てる弟を起こすのは躊躇うものがあったが、時計を見ると時間も時間だった。

起こさなければいけない。


「ヒューバート、起きろ。ヒューバート、」

「ん……」

肩を揺すぶり、俺はヒューバートの名前を呼んで起こそうと試みる。

しかし、弟は身じろぐだけで覚醒する様子は見られない。


「ヒューバート……」

眼鏡を外し安らかな表情で眠っているヒューバートの顔は、普段からは想像もつかない程あどけなく年相応だった。

それが7年前のヒューバートと重なって、やはりどれだけ強がってもヒューバートはあの時のヒューバートと同一人物なのだな、と俺はうんうんと一人納得する。



「(かなり疲れてたみたいだな……)」

そっと弟の空色の髪を撫でる。昔と変わらないふわふわとした柔らかい感触に俺は嬉しくて胸が温かくなった。

「あ……」

暫く頭を撫でてると、違和感を感じたのか。目が覚めたらしい、俺と同じ色をしたヒューバートの青色の瞳がうっすらと開かれた。

「おはよう、ヒューバート」

「……にぃ、さん……?」

――嗚呼、寝ぼけてるな。いまいち状況を判っていないのだろう、きょとんと朧気な瞳が丸くなった。
そんな弟の様子が可愛くて、俺は思わず笑みを零す。

「珍しいな。お前が俺より遅く起きるなんて」

「……」

「……ヒューバート?」

少し揶揄するような口調で言ってみたのに、何時もなら直ぐに返ってくる筈の弟の悪態が無い。

どうしたのだろう。予想外の弟の不思議に思って、弟の方を見ようとした刹那、ぽすんと何か温かいものに抱き付かれる。

「ヒ、ヒューバート……!?」

突然の弟の行動に、俺は目を白黒させる。
慌ててヒューバートの方を見ると、当人はまだ寝ぼけているらしく、自分が何をしているのか自覚は無いようだった。

「ど、どうしたんだ……?」

ぎゅうぎゅうと強く抱き付いてくるヒューバートに、俺は動揺を隠しきれないものの、悪い気はしなかった。


こうやってヒューバートが俺に(寝ぼけてるとはいえ)甘えてくるなんて事、もう無いと思っていたから。

嬉しくて俺はつい、胸の中にいる俺より少し小さい温もりを抱き締め返した。



――今も昔も、守りたいと思った存在。大切な、存在。

七年前に離れ離れになった弟が、今はこうして胸の中にいる。

あれだけ離れていた弟が、今はこんなにも近くにいる。

その事実が本当に嬉しかった。



「ん……?」

意識がはっきりとしてきたのか、暫くそうしていると、ぼんやりとしたヒューバートの瞳に光が宿ってくる。



「あ、やっと起きたか。おはよう、ヒューバート」

光が宿り、はっきりとした弟の青い瞳には、嬉しそうに笑った俺の顔が映っていた。





「……………へ!?」

暫く呆然と俺の顔を見ていたヒューバートだったが――今の状況に気付いたらしい――先程の俺みたいに目を白黒させて、間抜けな声を出した。


「な……なななな……っ!」

「……吃るの好きな、お前」

見る見る内に白い肌を真っ赤に染めていく弟の頭を俺は取り敢えず撫でる。

まぁ、目を覚ましたら実の兄と抱き合っていました、というのは確かに動揺するかもしれない。

ぷっと俺は思わず吹き出して、狼狽している弟にもう一度、おはようと挨拶をした。



可哀想な位真っ赤になった顔で、それでも律儀におはようございます、と挨拶をし返す弟が可愛くて、俺は暫く頭を撫でる手と笑いを止める事が出来なかった。




End?
 

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