兄×弟+α
□ずるい君
1ページ/1ページ
「ヒューバート、おいで」
――兄兼恋人の考えることは何年経っても解らない。
甘い顔立ちに笑顔を浮かべながら、腕を広げて自分を呼ぶアスベルに、ヒューバートは動揺故か、目を見開いて硬直した。
案の定のリアクションをしたヒューバートに、アスベルは苦笑しつつも、彼の元まで足を進めていく。
「ぅわっ!」
ヒューバートの目の前まで行くと、アスベルは、ばふっと言う擬音が奏でさせながら、ヒューバートを胸の中に閉じ込めた。
刹那、抱き締めた事で思い描いていたヒューバートの温もりや匂いを直に感じれて、アスベルは満足げな表情を浮かべる。
「え、なっ……に、兄さん!?」
――アスベルに抱き締められている、という事を理解したするや否や、ヒューバートの白い肌が羞恥心と動揺で真っ赤に染まり、兄から逃れようとじたばたともがいて抵抗し始める。
「こら、暴れるなって」
ぐいぐいと胸の中で暴れるヒューバートにアスベルは優しく咎めながらも、更に強い力で彼を閉じ込めた。
「温かいな、ヒューバート」
ふわりと兄の匂いがヒューバートの嗅覚を刺激する。
どれだけ抵抗しても決して己を離そうとしない兄の根性、そして大好きな兄の香りと感触に、ヒューバートは抵抗を諦めて赤く染まった顔を兄の肩にぽすんと乗せた。
「……いきなりどうしたんですか?」
「ん?ああ、別に大した意味は無いぞ。だって――」
照れ隠しかぶっきらぼうに疑問を口にしたヒューバートに、アスベルはふわりと――女性が見たら一撃必殺されるだろう――端正な顔に甘い微笑みを浮かべて、ヒューバートの耳に囁くようにその理由を述べた。
「――お前を感じたかっただけだから」
「……なっ!?」
とてつもない事を口走ったアスベルに、ヒューバートは思わず彼の肩に乗せていた頭を上げた。
反論しようと口を動かすが、動揺のあまりに言葉にならない。
「なっ……ななな……!」
「どうした?俺、何か変な事言ったか?」
胸の中で激しく動揺する弟の様子に、アスベルはきょとん、と不思議そうに大きな青色の瞳を瞬いて首を傾げた。
どうやら彼は自分がとてつもない口説き文句を発言した事に気付いていないようだった。天然とは恐ろしい。
「〜〜!」
――兄さんは、ずるい。
当たり前のように優しくて真っ直ぐで素直で。
7年経って俺様気質は形を潜めたけれど、結局今も昔も兄の一挙一動にぼくは振り回されまくって。
――本当に、ずるい。
兄さんばっかりぼくを振り回して、ぼくが兄さんに弱いのくらい、知ってるクセに。
「ヒューバート?」
「……ずるいです」
「え?」
ぼすんとヒューバートは再びアスベルの肩に頭を乗せて、ぽつりと今の心境を口にした。
「兄さん狡い」
「はぁ?」
弟の発言に意味が分からない、とばかりに目を丸くする鈍感で天然無自覚たらしな兄に、ヒューバートああもう、と呆れたように溜め息を吐いた。
「ずるいって……何処がずるいんだよ?」
「知りませんよ。ご自分で考えて下さい」
「えぇー……」
(本当に兄さんは狡い。天然たらしで無自覚でぼくを振り回して、)
(お蔭でぼくの心臓はバクバクいったままで、暫く止まりそうに無い)
「(本当、ずるい人)」
End?