山賊×情報屋

□桃色ハリケーン
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「――セの字、ウィの字……ワイ、ジェー坊に嫌われとるんかのう」

「はあ?」

場所はレイナード宅。そこのリビングにセネル、ウィル、モーゼスの三人はいた。

落胆という言葉がしっくり来るであろう、沈んだ声でそうカミングアウトしてきたモーゼスに、ウィルとセネルの2人は顔を見合わせて、きょとん、と目を丸くする。

嫌われている?モーゼスが?誰に?――ジェイに?

セネルとモーゼスがウィルの保安官のパトロールを手伝った後。モーゼスが深刻そうに話が有る、とウィルとセネルに言ったのはつい先程の事だ。

普段は笑顔が絶えないモーゼスが泣きそうな顔をしていたので、これは何か有りそうだ、と思って話が内密かつじっくりと出来るレイナード宅に彼を連れて来て早数分、大人しくソファに座らせられたモーゼスが発した一言で事態は冒頭に戻る。

――まさか、こんなカミングアウトだとは。
 

「いや、それはないだろ。馬鹿にしても嫌いな奴と付き合うほどジェイはお人好しじゃないだろうし」

「同感だな」

「じゃ、じゃが、最近ジェー坊が冷たいんじゃ……!よっぽどの事が無い限り、ワイの顔も見てくれんし!」

呆れたようにモーゼスを見たセネルとウィルに、反論するようにモーゼスは胸の内を明かす。

ジェイというのは、セネル達の仲間でも有り、男ではあるがモーゼスの恋人にあたる少年である。

モーゼスの話を聞くと、どうやら彼は顔も合わせてくれない最近のジェイにもしかしなくても自分は飽きられてしまって嫌われたのでは無いか、と不安になっているようだった。何時もの強面が涙目になっている事で台無しになってしまっている。

「(まったく……傍迷惑なカップルだな……)」

今のモーゼスの事情だけを聞けば、確かに破局の危機だとウィル達も思ってしまうだろう。しかし。

しかし、ウィル達は知っているのだ。どうしてジェイが最近モーゼスの顔すら見ないのか、彼に冷たく接するのか。だからこそ、一生懸命訴えるモーゼスに呆れた視線を送る事しか出来ないのだ。

はあ、と深い溜め息を吐いて、ちらり、とウィルはセネルを見た。セネルも同じ心境らしい、同じように呆れた表情を浮かべて肩を竦める仕草をした。
 

――擦れ違い、というか何というか。お互いベタ惚れという事が判っているので、盛大な惚気を聞いているようにしか彼らには聞こえない。

どうしてそう思うのか。

それは数日前、レイナード宅のこのリビングで状況は違うけれども、ウィルとその時たまたま現場にいたセネルに、『惚気』と言う名の相談をしてきてその内容と今の状況がリンクしたからである

『最近……モーゼスさんが可愛く見えて仕方ないんです……。それで、顔をろくに見る事も出来なくて……こんな事今まで体験した事なくて。キュッポ達にも相談出来ないし……』

モーゼスが可愛い過ぎて顔をろくに見る事が出来ないジェイ、そんなジェイに嫌われたと思って嘆くモーゼス。

本人達が至って真剣だからこそ質が悪い。このバカップルめ、と悪態を吐けずにはいられない。全ては両想い――しかもかなりのベタ惚れ――だからこそ起きている擦れ違い(傍から見たら盛大な惚気)なのだから。


「……モーゼス、大丈夫だ。ジェイはお前の事を嫌ったりなどしていない。オレが保障しよう」

「ウィの字……」

「それでも不安だと言うのなら明日あたりホタテクレープを持ってジェイをデートにでも誘ったらいいのではないか?多分、いや確実に応じてくれるだろう」

 
ぽん、とモーゼスの赤毛を叩いてウィルははっきりと言った。セネルもうんうん、と頷く。

やけにきっぱりかつ確信している2人の態度にきょとん、とモーゼスの瞳は丸くなったが、元来弱い頭では彼らの意図は判らなかったらしい、深く考えるのを止めて2人のアドバイスを素直に聞く事にした。







「疲れた……」

「そうだな……」

その後。アドバイスを聞いて元気を取り戻したモーゼスを見送った後の事。精神的に疲れたセネルはくたり、とリビングの床にへたり込んだ。普段ならだらしがない、とセネルに叱咤するウィルだが、今回ばかりは彼は何も言わなかった。

しかし、まだ終わっていない。セネルとウィルは判っている、彼の相談の途中に一人の少年がレイナード宅に入って来たという事を。尤もモーゼスは自分の事に手一杯過ぎて気付いていなかったものの。

少年もウィル達に再び相談をしに来たのだろうが、モーゼスの姿を捉えたからであろう、

大ボリュームで胸の内を明かしているモーゼスの声に紛れて微かなものであったものの扉の音に気付いたウィルとセネルと目が合ったが途端、少年はしっと人差し指を立てて『バラすな』と言うレクチャーを彼らに送って、

どろん、と持ち前の忍術を使用して一瞬にしてこの場から姿を消した。

否、消えたように見せたのだ。


あれから時間も経っているし、少年は気配を完璧に殺す事を得意とする。何処にいるかは判らないが、しかしまだ此処にはいるだろう。確証は出来ないが、ウィル達は確信していた。



「……ジェイ。出てこい」

すう、と深呼吸した後、意を決したセネルが少年の名前を呼んだ。

その刹那、どろん、と彼らの予想通り共に煙と共に消えた筈だった少年――ジェイの姿が再び現れた。

けれど、先程見たジェイの顔は悪戯っ子のような表情を浮かべていたが、今の彼は真っ赤で明らかに照れた表情をしていた。
 
その様子にやはり、と確信する。彼は姿を消してちゃっかりモーゼスの相談と言う名の惚気を聞いていたのだ。

困ったような、ぼんやりとしたような、複雑そうな表情を浮かべたジェイ。

暫くウィル達はそんな彼をじっと見ていたが、どうしよう、と小さく上擦った声に続いた言葉で先程モーゼスに向けた視線を今度は彼に送る事となった。


「……馬鹿山賊のクセに馬鹿なりに一生懸命にぼくの事考えてくれてるし。
嫌われたかもって思ったぼくが馬鹿みたいじゃないか。
でも、何であんなに可愛いんだろう、馬鹿山賊のクセに。顔、もっと見れなくなったじゃないか。
セネルさん、ウィルさん……ぼくどうしたらいいんでしょう?」


ウィルとセネルは顔を見合わせた。互いに呆れたような、うんざりしたような表情を浮かべて。

――2人の恋は2人だって応援している。彼らには幸せになって貰いたい。そう本気で思っている。
だけど、だけどだ。

またもや相談と言う名の『惚気』をしてくるジェイに、心の中で叫ばずにはいられなかった。


「(ああ、もう、)」

「(惚気るのもいい加減にしろ!!)」

 ――と。


End?



しおりさんへ!を込めて。

※お持ち帰りはしおりさんのみ可です。


By.津田けい
 

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