山賊×情報屋

□護る定義
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乱れた黒髪、紅潮した顔、快楽に歪む表情。
繋がって一つになる事は出来るのに、それ以上は出来ない自分がやるせなくて仕方が無い。






「XXXXXX」

深夜。モーゼスのテントにて。
隣で眠ってる筈の恋人のアルトの声に、モーゼスは目を覚ました。

「ジェ――」

「XXXXX、XXXXXX……」

――嗚呼、またか。

汗でびっしょりと濡れた黒髪、今は剥き出しになった、普段よりも白い――否、これは白いと言うよりは最早白を通り越して青いと言った方が適切だろう――肌。

そして、うわ言のように何度も何度も繰り返すのだ、6文字のあの言葉を。

――また、夢に魘されているのだ。
恋人が『忍者』だった頃の、過去の夢を。彼にとって悪夢にしかならない、過去の夢を。

今紡がれる6文字の言葉は、覚醒している彼の口からは聞いた事が無い。

しかし、だからこそ判る。どれだけ彼がこの夢に、過去に、恐怖や罪悪感を抱いているのか。

「ジェー坊、」

名前を呼んで、モーゼスは手を伸ばして小さな体を揺らす。

しかし余程魘されているのか、閉ざされた瞼は開く事が無かった。

チッとモーゼスは苛立ちから舌打ちした。

彼に何もしてやることが出来ない自分に、モーゼスはこれ以上ない怒りを覚えたのだ。

過去は決して変える事が出来ない。彼の罪も、彼がされてきた仕打ちも、それが過去である限りは、決して変える事など出来やしない。

――どれだけ彼を愛しても、彼と未来を紡いでも、慰めようとしても。

この不変の過去がある限り、彼は一生この悪夢を見続けるのだ。

「っ……」

相変わらず壊れたレコードのように彼の唇から繰り返される6文字の言葉に、胸がどうしようもなく痛くなって、モーゼスは思わず彼を揺らしていた手を止めて代わりに強く抱き締めた。

ぐっしょりと汗で濡れて冷たい彼の身体が愛しくて切なくて。モーゼスの胸は更にぎゅうっと締め付けられた。

「(ど畜生……)」

――堪らなく悔しくて、堪らなく切なくて、でもどうする事も出来なくて。

血が滲むほど唇を噛んで、モーゼスはぎゅうと抱き締める力を強めた。

「う……」

強く締め付けられる身体に違和感を感じたのか、漸く目を覚ましたらしいジェイが重い瞼を開けた。それに気付いたモーゼスはほっと胸を撫で下ろしながら、腕の力を緩める。

「モーゼス、さん……?」

「お、おお。起きたか、ジェー坊」

ぼんやりとした紫の瞳がパチパチと数回瞬きをしながら、モーゼスを捉える。そして、ジェイは緩められた事で身動きが取れるようになった自身の白い手をモーゼスの顔へと伸ばす。すっとジェイの指がモーゼスの目尻を拭う。それで、モーゼスは漸く自分が泣いているという真実に気付き目を大きく見開く。


「どうして……泣いてるんですか?何か悪い夢でも見ましたか?」

「……」
 

モーゼスは何も答える事が出来なかった。どうして自分が泣いているのか、判らない。

ツラいのは自分では無く、ジェイの筈なのだ。やっと悪夢から解放されて、夢見も悪くて気分は相当良くないだろうに、ジェイの方がツラい筈なのに、一体自分は何をしているのだろう。

「………モーゼスさんって体温高いですよね。子供体温というか、身体は馬鹿みたいにデカいのに」

「……………悪かったの」

「でもね、」


何度も何度もモーゼスの涙を拭った後。ジェイはモーゼスの背中に両腕を回した。

そして、ぽすんとモーゼスの胸板に暖を求めるように頬を摺り寄せて、柔らかいされど強い口調でジェイはこう言い放つ。
  

「貴方のその温もりがあるから、ぼくは貴方から離れられないし、その温もりがあるからぼくは今を生きれる」


少しだけ震えた声は、モーゼスの胸を更に締め付けるには十分で、けれど、じわりと胸を温かくするにも十分で。


――自分は馬鹿だから、ジェイの言葉の意味の真意が読み取れない。

だけど……だけど、これだけは判る。ジェイは自分を必要としてくれてるんだ、と。

「―――」

衝動的にモーゼスは再びジェイを強く抱き締めた。それに呼応するように、ジェイも腕の力を強める。

ふと、モーゼスは自身の胸板が濡れていくのに気付く。

嗚呼、ジェイも泣いているのだ。そう気付いた時には、自らの頬にまた熱いものが流れて来だすのを感じた。
 


(「ごめんなさい」と繰り返して過去に怯え悔いる恋人に、)
(自分はただ抱き締めてあげる事しか、出来ない)


(けれど、それが彼を護る――支えることなんだと気付いたのは、もう少し自分が大人になってからの、話)


End?

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