山賊×情報屋

□世界で一番幸せ者
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「ワレ、背もちっこいが、手をちっこいのう」

クカカと独特な笑いを漏らして、無遠慮に人の手を掴んでくる赤毛の少年に、ギロリと黒髪の少年は鋭い眼光を浴びさせた。



場所は山賊首領であるモーゼス・シャンドルのテント内。

情報屋の仕事をこなしたジェイが恋人であるモーゼスのテントに訪問するのは、最早日常茶飯の事になりつつある。

今日もジェイは仕事をこなした後、モーゼスの元に訪れたのだが―――。

「小さいは余計です。ていうか、何処かの誰かさんみたいなウドの大木よりは全然マシですよ」

「……ほう?そいつはどがあな了見じゃ?」

「あれ?僕は何処かの誰かさんみたいと言っただけで、別に貴方の事を言った訳じゃないんですけどねぇ」

嫌味に口元を上げて、ジェイはモーゼスに容赦無い言葉を浴びさせる。

「……」

何時も以上に刺々しいジェイの反応に、モーゼスは思わず顔を渋らせた。

――女性のような顔立ちや華奢な体格はジェイにとってはコンプレックスな要素しかならない。

特に長身で雄々しい印象が強いモーゼスにそれを言われるのがジェイのプライドを堪らなく刺激するのだ。

「(そがあに小さいって嫌なもんかのう……)」

幼い頃から体格に恵まれてるモーゼスにとっては、ジェイの気持ちは些か理解し難いものがある。
と言うか、むしろジェイの体格を密かに羨ましく思うモーゼスにとって、それを何故嫌がるのかが判らない。

――真っ白で華奢な身体、女性のように整っている美しい顔立ち。

自分とは余りにも違い過ぎる繊細な容貌、体格。それはモーゼスにとって、羨望を想わせるものだった。

隣りの芝生は青い、という原理から来るのだろうか。

自分には無いものを沢山持っているからこそ、憧れを抱いてしまうものがある。

しかしジェイまでとは言わずとも、モーゼスも素直ではない性格だ。

密かに羨やましく思うものの、それを口にするのはためらわれて、ついつい揶揄してしまうのだ。
 
――喩え、ジェイが怒ると判っていても。



「(しっかしほんまちっこいのう……)」

憧れすら抱く繊細な小さな手は、やはり自分とは違い過ぎる。

余りの大きさの違いに、思わずモーゼスは感嘆の息を吐いた。


「(……何じゃろう、可愛ええな)」

小さくても女性的であっても、やはりジェイは男である。

けれど、それでも可愛い、愛しいと思うのだからやはり余程惚れ込んでいるのだな、とモーゼスは笑みを浮かべた。



「……何笑ってるんですか、気持ち悪い」

「いや……の。ワイは幸せ者やと思っての」

「……貴方、さっきの会話でそんな事考えてたんですか?ドMですね」

「な、何でそうなるんじゃ!?違うわ!!」

確かにジェイからして見れば、辛辣な言葉を浴びさせたのにも関わらず『自分は幸せ者』発言をされたら理解不能なのかもしれないが、モーゼスとしては心外だ。

――自分はドMではない。断じて違う。

「ムキになってるとこが余計怪しいんですけど。……まぁ、いいや。モーゼスさん、」

「な、何じゃ」

「僕仕事帰りで疲れてるんです。眠くて堪らないんです。だから手も背も馬鹿みたいに大きいモーゼスさん、枕になってくれません?」







「(……何じゃこりゃ)」

予測も出来なかった状況に、モーゼスは目を白黒させるしか出来ない。

――膝に感じる小さな温もり。
それはすやすやと寝息を立てて眠っていて。

『いいですか馬鹿山賊。何かしたら、その時は命は無いと思って下さい』

と言ってモーゼスの膝を枕にして眠りについたジェイ。

どうしてジェイがこんな行動に出たのかモーゼスはジェイではないので解らないが、取り敢えずは少しは頼りにされていると言う事なのだろう。少なくとも膝枕にしても良い位には。




「………」

膝に感じる温かな温もり。
ずっとこの温もりを感じていたい、そう想うのは我が儘なのだろうか。

「……のう、ジェー坊。ワイ、やっぱり幸せ者じゃよ」

するりとジェイの髪飾りを外しながら、モーゼスは優しく語りかける。

「一番好きなヤツと話せて、一番好きなヤツが傍におって、一番好きなヤツの温もりを感じれる。こんな幸せなもんは無い」

ふわりと広がる艶やかな長い黒髪。
それを手櫛で梳くようにして撫でながら、モーゼスはふっと瞳を細める。

「ワレを一番好きになって良かった。あんがとな、ジェー坊」

ピクリ、と身動きした小さな温もりはきっと起きてるのだろう。耳も赤くなっている。

だけど、必死に寝たフリをしているのだから、こちらも敢えて気付かないフリをしよう。


(こんなにも愛しい君の温もりを感じれる自分は、)
(やっぱり世界一の幸せ者)


End?
 

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