山賊×情報屋

□青春日和
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これは、蒼天の空の下での出来事。
結ばれたばかりの二人のほんの些細な、日常。


「いい天気じゃのう」

「そうですね」

場所は輝きの泉。そこにモーゼスとジェイはいた。

クカカと独特の笑い声を上げて空を見上げるモーゼスに、ジェイもまた空を見上げた。

――いつもと変わらないやり取り。しかし、いつもとは違って双方の表情は何処となく硬い。

今日は珍しくジェイの仕事がオフだった。それならば二人で出掛けよう、と言うモーゼスの提案にジェイが受け入れて今に至る。


「「……」」

「「………」」

「「…………」」

「「……………」」

穏やかな風、柔らかい陽射し。美しい泉に、生い茂る緑。

コンディションは最高の筈なのに、どうして。

「「(何だ、この気まずさ……)」」


居心地とは所詮気持ちの持ち用で、例えば互いが『緊張』していたら必然的に居心地は悪いものとなってしまう。

そう。二人は『緊張』していた。
何故、二人が『緊張』しているのか。その理由は実にシンプルである。

「!」

不意に緋色の瞳と紫色の瞳が、交差した。
しかし、それは束の間の事で直ぐに目を互いに背けてしまう。

「(ど、どうしよう……)」

何時ものポーカーフェイスはなりを潜めてパニックに目を白黒させ、かああと透き通るような白い頬が一気に紅潮させたジェイの姿は、元来の女顔も加わってか、さながら恋する乙女に見える。

一方のモーゼスも顔を紅潮させて目を右往左往させているあたり、ジェイ同様動揺している事は明瞭であった。

――モーゼスとジェイ。
二人の関係はついこないだ想いを通わせたばかりの、恋人同士だった。



二人は『恋愛』に置いて、とても無知だった。
そもそも、双方育った環境が特殊であった為か今まで恋愛感情を抱く機会がなかったのだ。

しかし、一緒に行動するにつれて二人は衝突さえするものの、互いに惹かれあっていき、『初恋』を覚えた。

不器用でしかも自分の感情に鈍感な二人が、この『初恋』を自覚して想いを告げる事は決して容易な事ではなかった。

しかし、見兼ねたノーマやクロエたちの壮大な尽力もあって、かなりの日数をかけたもののやっと想いを通じ合う事に成功した。

――そして今に至るという訳なのだが、二人は『恋愛』に置いての一般常識は持ってる。しかしいざ『恋愛』を目の前にしたら、どうも頭が真っ白になってしまう。

「(……弱ったの、)」

このギクシャクとした雰囲気を打開したいが、どうすればいいのか全く見当がつかない。

ポリポリと頭をかいて、モーゼスはチラリと隣りにいるジェイの顔を盗み見する。

――真っ赤な頬、はにかんだ表情。

滅多に見た事の無いジェイの様子にトクンと胸が高鳴った。



「(……かわええな)」

男に可愛いなんて、とも思ったが、目の前の彼はとても可愛かった。

でも、何処か硬いその表情(自分もだが)にどうにかほぐしてあげたくて、モーゼスは思考を巡らせる。

「(いつものようにからかってみるか?いや……今はからかう要素がないから無理じゃな。なら……ん?)」

キョロキョロとあたりを見渡していると、ふと泉が視界に入った。

「(これじゃ)」

視界に入ったそれに、ニヤリとモーゼスは意味深な笑みを浮かべる。そして腰掛けていた身体を立ち上がらせ、泉の方へ歩き出す。

「?モーゼスさん、どうしたんですか?」

「ん。ジェー坊、ちょっと来いや」

「?」

唐突なモーゼスの行動に理解が出来ずにきょとんと目を丸くしたジェイだったが、取り敢えずは来いとジェスチャーしてくるモーゼスに大人しく従う事にした。








「泉に何かあるんですか?」

泉に近付くモーゼスの行動の意図が読めないジェイは困惑の色を隠し切れないようだ。

「知りたいか?」

「……別に」

すいっと泉の水を掬い、後ろを振り返ってモーゼスは、ジェイを見つめた。

――愉しそうな顔。しかし何時とは違い、何処となく艶を帯びた大人びた表情。
 
そんなモーゼスの姿に悪態さえ吐きながらも、とくん、とジェイの胸が高鳴らせた。

悔しいから絶対言ってあげないけど、やっぱりこの人は格好良――。

バシャッ

「!?なっ……」

ポタリと水滴が顔全身にかかる。
嗚呼水をかけられたのだ、そう理解するのには時間はかからなかったものの、突然の不意打ちにジェイは呆気にとられる事しか出来なかった。

「クカカ!してやったりじゃな」

「………貴方、まさかこれだけの為に泉に近付いたんですか?」

「おう!」

「………」

大人しく付いて行った自分が、彼に見惚れた自分が、軽率だった。

「ふっ……ざけるな、この馬鹿山賊!!」

「ぐほぉ!!」

普段こそ抑えているものの、ジェイは意外にも口より手が出るタイプだ。

今回も例外に漏れず、怒りに任せてモーゼスの鳩尾に強烈な蹴りを入れた。



「ワ、ワレ…思いっきし鳩尾に入れおったな…」

「当たり前です!今度やったら苦無投げますよ!!」

「ワイを殺す気か!」

ぎゃあぎゃあ、と『何時もと変わらない』口論を繰り広げていく。
しかしその内に、だろうか。確かに抱いていた『緊張』がほぐれていく。

そして、直感した。
仲間から恋人として関係が変わったとしても、モーゼスはモーゼス、ジェイはジェイなのだ、と。


(今はまだ甘い関係にはなれないのかもしれないけど、それでいいのだと思う)
(ワイがワレを、ワレがワイを好きでいてくれる、それだけで今は充分)







「大分暗くなったの。そろそろ帰るか!」

「そうですね。……あの、モーゼスさん」

「ん?どがあした?」

「その、あ……いや、何でもありません。早く帰りましょう」


 蒼天の空の下で繰り広げられる二人の恋愛模様。それは、空と同じ色をしていて――。




END?
 

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