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□昔の物語
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そうあの時の俺はすべてがつまらなかった。人よりも頭がよく、周りにはいつも人がいて顔もよかったので女にはこまらなかった。はたから見ればいい人生だろう。だが、俺自身は全て無色でつまらないものだ。色も光もない世界それは辛いものだった。
そんな俺のアルバイトは船乗りだった。海は好きだ、全てを包んでくれる。そして唯一色の無い世界でもこの海だけは俺の世界で色を付けていたからだ。
相変わらず暇な時を過ごしていた俺にある噂が聞こえてきた。ソーディアンの存在とソーディアンしか唱えられないはずの晶術を唱えられる人間の噂が。ソーディアンは子供でも知っている有名な剣の総称だ。だがそれは昔のもの、昔のものは大げさに書かれていることが多い。どうせソーディアンの力もその人間の力もたいしたものではないだろう。
そう思っていた、あの奇跡に出会うまでは



あの時ノイシュタットはモンスターに襲われその首謀者と戦うために船で戦うことになっていた。船にはあの噂のソーディアンとその使い手とその他の仲間がいる。全員そろいもそろって頭が悪そうだ。こんな奴らが本当にソーディアンを使えるのだろうか。そんなことを考えているとある少女が俺の目に映った。
青い髪に青い目、海を思わせるような色だ。この中で一番幼い。こんな子供までも戦わせるだなんて王都も堕ちたもんだな。一体どうなるんだろうか、そんなこと思いながら俺は仕事に就いた。


そして奇跡に出会った。


『ダイダルウェーブ!!』


目の前で津波が敵の戦艦を破壊していく。こんな神がかりなことをしたのは先ほどの少女だ。見た目とは似ても似つかないその力、海の飛沫が太陽に照らされて少女の周りを照らした。まるでそこだけ神聖な場所だった。そして色の無い世界で彼女だけは俺の世界で人間だった。いや、人間ではない。光だ、女神だ。色の無い世界で唯一光を届けてくれる存在。そして少女がこちらを向いた瞬間俺には何とも言い難い感情が押し寄せた。

彼女が欲しい、手に入れたい、俺だけの存在にしたい、あの光を壊してみたい、触れてみたい、怯えた顔が見たい、笑ってほしい

普通から見たら異様な感情だろう。だが俺の感情はそうだった。仲間に叱られている少女を食い入るように見つめていた。今までだれかを羨ましいと思ってきたことなどなかったが今彼女のそばにいる奴らが異様に羨ましかった。


それから俺は街で彼女の写真を売っていることを知り、今まで貯めた金をすべて使い写真を買い漁った。そして毎日彼女の写真を見て想像していた。彼女が自分に微笑む姿、時には部屋に閉じ込め鎖につながれた姿を想像した。最初はそれで満足していた。だがやはりダメだ。写真を見てもだんだんと満足はしなくなってきた。写真を目の前にして思った。俺が欲しいのは写真(こんなもの)じゃない。彼女だ。彼女が欲しいんだ



いろんな方法を考えたがどれもだめだ。だがそれでも狂った様に考えた。そんなある日用事で街を出てその帰りモンスターに出会った。帯剣はしているが実践で使えるようなものじゃない。防戦一方の時、モンスターが晶術を使ってきた。その時俺にある考えが浮かんだ。


俺も晶術を唱えられるようになればいい


気が付けば目の前には息絶え絶えなモンスター、手には血がこびり付いた剣。見るも無残なモンスターに普通なら怯えるだろう。だが俺はそのモンスターを連れて誰にもばれないように街へと帰って行った。そして遠いほとんど人が住んでいないような辺境に引っ越しだ。

それからは実験の毎日だった。子供を攫って来て実験台にし成果を上げていった。するとどこから聞いたのかどこかの富豪が俺を支援してくれると言ってきた。この町で実験をするのにはそろそろ手狭になってきたと思ってきていた頃な上に生活費もやばくなってきた俺に取ったらその申し出は利用価値があった。


どんどんでかくなるこの実験、多くなる人。それはこの実験の成果がだんだんと完成している証拠だ。


あともう少しだ。もう少しで彼女に近づける。彼女を手に入れられる。壊せる。俺だけのものに


そう思っていた矢先、信じられない噂が聞こえた。


少女が死んだのだ


俺の女神が俺の光が俺の色が俺の世界が


こ わ れ た


俺はその後すがるかのように実験に没頭した。それしか俺と少女をつなぐものはなかったからだ。外のことなど知らない。この世の終わりが来たとか聞こえたがそんなものはどうでもいい。俺の世界はもう壊れているんだ。


だが世界はこわれなかった。それから18年まだ実験は完成しない。あともう少しもう一歩、だがそれが見つからない。


欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい




力が?




少女が?








よくわからなくなっていた時、研究員からある情報を手に入れた。

あの少女に似た人物が城にいると


それを聞いた瞬間俺はすぐに研究室を出た。久々にみる日の光に一瞬目がまぶしくなる。だがそれにかまっていられない。俺はすぐに王都に向かい真相を確かめた。王都についた俺は出来るだけ目立たないように気を配った。

そして見つけた、あの少女を。あの青い目、青い髪。間違いない彼女だ、周りはあり得ないとかいうがそんなわけない、彼女は女神だ、お前らみたいな人間とは違うんだ。あぁ、やっぱり彼女は女神だ。俺のために戻ってきてくれたんだ。

街を歩く彼女


俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ俺を見ろ


そう念じていると急に彼女の肩を抱く男が表れた。触るな俺の女神に、彼女は俺のために戻ってきたんだ、お前みたいな人間が彼女に触れるな。だが少女は嫌そうなそぶりどころか、幸せそうに笑っていた。それがより俺をいらだたせた。俺がいるのに俺はこんなに想っているのに、どうしてそいつを見る。

…そういえば彼女が死んだ理由は男をかばったからだと聞いた。ならなおさらその男はだめだ。彼女を殺してしまう、また失う。だめだ、もう失わせない。逃がさない


俺が守ってあげるよ

俺だけが君を守ってやれる

君も俺だけを好きなるはずだ

俺だけに殺されるはずだ

絶対に離さない

永遠に一緒にいよう









昔の物語






『私はアーベル・バーゼルト。今回貴女の担当させていただきます。よろしくお願いしますね。』

俺の女神、漸く出会えたね。







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