ごちゃまぜ

□酔っ払いの言うことに信憑性はない、かといってすべて嘘ではない
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セラは直属のモレスを別として、まるでそこに誰もいなかのように使用人を扱う。お辞儀をしても視線一つ向けることはない。何かを命じる時も、機械を操作するかのように、無機質に冷たく命じる。粗相があった時の罰は厳しい。まだ奉公に上がったばかりの名無しは見たことはないが、熱した鉄で背中を焼く仕置き部屋があるという。それでも使用人が辞めないのは給金がいいからだ。名無しも貧しい家族を養うために若くして奉公に出された。
冷酷ではあるが、金と権力を持ち若く独身であるセラには縁談がよく上がる。セラは本気で考えているのか、あるいは戯れか、何度も見合いをしている。今日は新しい見合い相手がセラの屋敷を訪れる日だ。名無しはそのために、玄関ホールや廊下や客を迎える部屋を、いつも以上に念入りに掃除した。出迎えと見送りを他の使用人たちとしたとしたが、気位は高そうだがとびきりの美人だった。今まで名無しが見てきた見合い相手の中で一最も美人に思われた。
その夜セラは、屋敷の一室にある、セラお気に入りのソファで酒を飲んでいた。しかし日頃の当主としての務めによる疲れもあるのだろう。飲んでいる途中で寝てしまった。それを見つけた名無しは主人が風邪を引かないようにと毛布を出してきて、そっとセラにかけた。するとセラの目が薄く開いた。名無しはしまった、と思い、セラを恐れた。

「起こしてしまい申し訳ございません」
「いや…いい。ありがとう」

名無しは返事を受けたこと、礼まで言われたことに驚いた。たとえ酔っていてもそのように使用人に親しく接するセラを見たことなかったからだ。
セラは背もたれから身体を起こし、ジッと名無しの顔を見つその腕を掴み自分の方へ引いた。

「妻を迎えるならお前のような朴訥な女がいい」

そのまま唇を奪われた。ウブな名無しは真っ赤になって唇を押さえた。

「セラ様、お戯れは、」
「戯れなどでは、ない……」

そのまま背もたれに倒れ込みもう一度寝てしまった。何故か先ほどまでは恐ろしいとしか思えなかったセラのその寝顔が尊く美しいものに見えた。それは愛されたという実感からくる心境の変化のためだった。

翌日、セラと廊下で出会う。ドキドキしながら隅によりお辞儀をするが、セラはいつも通り使用人になど見向きもしない。そこには誰もいないかのように、セラは名無しを通り過ぎて行った。


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