ごちゃまぜ

□愛しき人
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名無しは、ドルベの方へ顔を寄せて目を瞑る。こうするとドルベは控えめなキスを名無しに与えてくれるのだった。しかし今日は違う。いくら待っても何の感触もない。何もしてこない。不思議に思い目を開けると、怖いくらいに真剣な表情のドルベがそこにいた。

「どうしたの?」

ドルベはしばしの間を空けてから、

「もう終わりにしないか」

そう真面目な表情で答える。ドルベは何を言う時も真面目な表情をしているから、どこまで本気なのかわからない。実はこれを言われたのはもう数度目になるが、決まっていつも通りのクソ真面目な表情である。

「またそれ?私あなたが人間じゃなくたってそんなの全然気にしないわ。今だってたまにしか会いに来てくれないけど私にはそれで十分よ」

これで普段のドルベなら納得してくれるはずだった。しかし今日のドルベは違う。名無しに食い下がってきた。

「君とは刹那的な関係しか結べない。よく考えるんだ。君の人生の大切な時期を、私が台無しにしてしまう。いずれバリアン世界に帰らねばならぬ私だ。稀に会えることもあるかもしれないが、一緒に歳を取ることはできない。子供を作ることもできない。君は君のことを幸せにしてくれる人間の男と結ばれるべきだ」
「ドルベ以外の男と一緒になるなんて考えられない。今だけで構わない。いずれ別れが訪れるならそれを受け入れる。だからそれまでは私と一緒にいて」
「ダメだ。君のためにならない」
「勝手に決めつけないでよ!それにあなただって私のことを好きなくせに!」
「ああ、君を愛している。だから別れるんだ。君を不幸にしたくない」
「じゃあバリアンなんてやめちゃいなよ。人間として私をずっと好きでいて」

ここで初めてドルベの表情に陰りができた。自分がバリアン七皇としてバリアン世界を守る使命と、名無しを愛すること。とても天秤にかけられるものではない。しかし敢えて天秤にかけなければならないのなら……

「すまない…それは…できない……。私は、バリアンだ……」

苦渋の決断だった。バリアンであることを捨てることはできないが、名無しのことだって強く愛している。

「意気地なし!ドルベなんてバリアン世界にでもどこにでも永遠に消え去っちゃえばいいんだ!」

名無しはドルベに背を向ける格好でベッドに寝転んで頭まで毛布を被った。名無しはドルベが後ろから抱き締めてくれることを期待した。しかし幾度経てども抱き締められるどころか何の物音もしない。名無しは毛布から頭を出して振り返ると、そこには誰もいなかった。ワープしたんだ。名無しは先ほどまでドルベがいた場所に枕を投げつけて泣いた。


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