ごちゃまぜ

□正直者の見る景色
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真月は真っ直ぐな瞳で名無しを見つめながら、真剣な口調で問い質した。

「で、どうでしたか?」

対する名無しは困ったように目を泳がせ、うーん、と小さく声を上げた後、何か閃いたように顔を輝かせ、

「サラダは美味しかったよ!」

と答えた。それを聞いた真月の顔は暗い。

「サラダは、ですか…。他のものはやっぱり美味しくなかったんですね…。しかもサラダなんてただ野菜を千切って市販のドレッシングをかけただけですし…」
「ああっ、えーっと…」

名無しには傷付いた、もとい傷付けてしまった真月のフォローをすることはできなかった。こういう時、名無しは正直すぎる自分の性分を呪うのだった。実直な人柄は名無しの大きな魅力だが言うべき嘘さえつけない融通の利かなさは長所の裏返しの短所だった。

「誰にでも得手不得手はあるから…。今度は一緒に作ろう。真月くん」
「名無しさんは優しいですね」

そう言われて名無しの胸はチクリと痛むのだった。真月が自分のために心を込めて作ってくれた料理を美味しいと言ってあげられないのに、優しいなんて言われては、名無しの心は針を刺し込まれたかのように痛むのだった。

「名無しさんに喜んでもらおうと、よかれと思って作ったのに…はぁ」
「真月くん…。私は真月くんのその心遣いがすごく嬉しいよ。本当だよ」

正直者の名無しの言葉には偽りがないことは、真月は誰より理解している。だから遠慮がちに微笑んで、

「名無しさんが僕の恋人で良かったです」

と頬を赤らめるのだった。名無しもそう言われて嬉しくないわけがない。

「私も真月くんが彼氏で幸せよ」

そしてどちらからともなく寄り添い合い、二人のシルエットは重なった。長く深い口づけだった。やがて二人は名残惜しげにゆっくりと離れ、しかし真月は名無しの肩を掴んだままだった。


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