ごちゃまぜ

□幸福の行方
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不幸は突然訪れた。ほんの数時間のはずだった。数時間すれば両親は美味しいお土産を持って私の元へ帰ってくるはずだった。ところがいつまで経っても両親は帰ってこない。代わりにやってきたのは両親が事故死したという訃報だった。

私はひとりぼっちになった。親戚たちは私が相続した財産を巡って骨肉の争いを繰り広げた。それまで優しかった親戚のおばさんやおじさんたちが自分を金の卵としか見ていないことを知ってそれは深く傷付いた。結局後見人になった叔父夫婦も財産目当てで自分を引き取ったことはもちろんわかってる。そしてなお納得のいかない他の親族たちが財産をよこせと文句を言っていることも知っていた。

ある夜のこと。私はいつも、両親を失った悲しみ、自分を渦中にした親戚たちの争いの醜さ、心許せる人のいない孤独感に苦しめられていた。それを紛らわそうと夜風に当たろうとベランダに出た。狭い室内は心を濁す。居候ということで私はこの屋敷でもっとも狭い部屋を割り当てられていた。しかしこの屋敷は両親が遺していった財産で勝手に建てられたものだ。「あなたを養うためもっと広い家が必要でしょう?」と言いくるめられたのだ。まだ幼かった私には取りつく島もなかった。悲しみが膨れ上がってどうしようもなくなった時はこうして外の空気を吸って気を紛らわす。特にこの日のような静かな夜が好きだった。知らぬ間に溢れ出た涙を拭っている時のことである。何か温かいものが肩を覆うのを感じた。

「え、何…?」
「良かれと思って、僕の上着をかけてあげました」

知らない声に驚いて振り返るとそこには私と同い年くらいの少年が立っていた。肩にはぬくもりが残った男物の上着がかけられている。ここは二階のバルコニーだからよじ登ってこれなくはないだろう。しかしこの屋敷のセキュリティに引っかからずここまでやってくるなんて…。私の一抹の恐怖心に気付いたのか、男の子は驚かせてしまってごめんなさいと言い、真月零、と名乗った。

「あなたが僕を必要としているから、僕はやってきたんです。名無しさん」
「え、どういうこと?どうして私の名前を知っているの?」
「僕は名無しさんの親友になるためにここにやってきたから」
「親友に?私と?」
「僕は名無しさんの寂しさを埋めるためにやってきました。良かれと思って僕と親友になってください」

私は彼が何者なのだろうと深く考えることもせず、また、そうする必要もないと思われた。何故かはわからない。ただ純粋に、久方ぶりに触れた人の善意に嬉しくなって思わず彼の手を握った。

「よく来てくれたね。ありがとう。真月くん」
「良かれと思って」

彼は太陽のような笑顔で私を照らした。


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