ごちゃまぜ

□熱情
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「お嬢さん、落し物ですよ」
「はいはい天使の羽とか言うつもりなんでしょ?そういうのもういいから」
「なっ…!オレのカウンター戦法が効かないなんて…!」

こうしてわけのわからないアプローチを受けるようになってしばらくになるから、かわし方もだんだんわかってきた。本当は冷たくなんてしたくないけれども、はっきり言ってやらないとしつこく迫ってくるのだから仕方ない。

「私、アンタとそういうつもりないから。諦めて」
「くっ…!オレは絶対に諦めねえぞ!いつか必ず天使のハートを射止めてみせる!」

本当は嬉しかったなんて口が裂けても言えない。嬉しいなんてもんじゃない。初めてオレの天使なんて声をかけられた時は心臓が口から飛び出るほど驚いたし、狂喜した。まさかアリトが私のことを好きになってくれるなんて。今私はアリトから猛烈に愛されている。これ以上幸せなことがあるだろうか。でも決して彼を好きになってはいけない。アリトが私を好きになるずっと前から彼を見てたからわかる。心を通わせてしまえばそれは悲しい末路へ繋がる。



ほんの数日後のことである。アリトから毎日幾度となく受けていたアプローチをまったくされなくなった。わかりきっていた結末だがそれでも私の目はアリトの姿を探してしまう。校庭で大きなバラの花束を見知らぬ女子生徒に差し出しているアリトを見つけたのは放課後のことであった。綺麗な人だった。また、一目惚れしたのだろう。それまで追いかけていた私のことなどもう露も頭にないはずだ。
アリトはそういう男なのだ。彼の恋は一瞬の、あっという間に燃え尽きてしまう恋。ずっと彼のことを見てきたからわかる。両想いの相手がいるとかいないとか、そんなことは関係ない。実際に他の女性と心を通わせながら別の女性に一目惚れしてしまい、それまで付き合っていた女性に「悪い、人違いだった。オレの天使はアンタじゃない」と人目憚らず冷たく言い放つ姿を目撃してしまっている。だから彼を好きになってはいけないんだ。



ほんの一週間だったかな。いい夢を見ていた。でも、どうせいい夢を見るなら一番いい夢を見るべきだったの…?どうせ傷付くなら一瞬でも恋に身を焦がしてそのまま燃え尽きてしまえば良かったのかもしれない。私にはわからない。



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