ごちゃまぜ

□アディクション
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ミザエルは久しぶりに名無しの元を訪ねた。家にこもったまま顔を見せない名無しを心配してのことであった。名無しは少しやつれたようだった。

「元気、ではないようだな」
「まあ、ね…」

名無しが暗い顔をしている原因をミザエルは知っていた。ベクターの慰みものにされているのだ。名無しがベクターの帰りを待ち詫びているのを知りながら、ベクターは今も自由奔放に放蕩を続けている。
窓際に枯れた花束が飾られているのが目に留まった。立派だったであろうそれは今は見る影もない。おそらく最後にベクターが来た時に気まぐれで、あるいはアイノアカシだのなんだのと言い含めて、名無しの気持ちが自分から逃げないように仕向けるための道具に使ったに違いない。だから名無しはベクターが帰ってくるまでいつまでも花束を捨てられないのだ。そしてベクターはそれを理解しながら名無しの苦しみを愉しんでいる。ミザエルは瞬時にすべて悟った。

「あれではもう飾りにならないだろう」

ミザエルが枯れた花束を捨てようとすると、名無しがミザエルの腕を掴んで止めた。

「だめ、捨てないで」
「ゴミでも大事か」

敢えてゴミという言葉を強調した。すると名無しの瞳にみるみるうちに涙が溜っていく。

「もらった時は宝物だったのよ。ううん、今だって。決して枯れないわ。でも私わからなくなる。ベクターのことが憎くて憎くてどうしようもなくなる時がある」
「あのような輩、憎んで当然だ。名無しの誠実に対しこのような惨い仕打ち許せない」
「あはは、ありがとう。でもね私ばかだから、悪い男を好きになっちゃうみたい。だから私のことは放って…」

言葉が途切れる。ミザエルが名無しを押し倒していた。

「ならば私が悪い男になればベクターを忘れられるか?」

名無しは一切抵抗しなかった。目を瞑ったまま我が身のすべてをミザエルに任せた。ただ時折、吐息の合間に「ごめんなさい」とつぶやき、ミザエルをわけのわからない気持ちにさせた。
すべてが終わった後もなお名無しは謝り続けた。それが、弱みにつけこんで強引に想いを遂げてしまったミザエルの罪悪感を助長した。

「悪いのは私だ…」

名無しは小さく首を振った。

「ごめんなさい、ベクター」



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