ごちゃまぜ

□カテドラルの終焉
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世界は二つに引き裂かれ、他方が一方を滅ぼすだろうの続き



ミザエルは仲間に不審に思われない頻度で名無しとの接触を続けていたが、この間名無しがまったく捉まらなかった。所在が掴めないのだ。遊馬や凌牙たちに見つからないよう細心の注意を払い行動を制限する必要もあり、満足に名無しを探すことも叶わない。とうとうミザエルは痺れを切らし、目立つことを覚悟で休み時間を告げるチャイムと同時に名無しのいる教室に飛び込んだ。軽はずみな行動を後悔する気持ちもあったが、教室の後方に、机の上に広げた教科書やノートを片付けている名無しの姿を見つけると、そんな気持ちはすっかり吹き飛んでしまった。久々に目にする名無しの姿にミザエルの胸は高鳴る。足早に近付くミザエルに驚いた名無しが口を開くよりも先に、


「最近姿を見ないが」


と聞いた。詰問するような口調になってしまい、しまったと内心思ったが、名無しは友人の怒りを悪くは取らなかった。むしろ、心配かけて申し訳ないといった風に、丁寧に、最近ずっと図書室に行っていたのだと説明した。


「私も図書室へは何度か行ったが」
「毎日行っていたわけじゃないのよ。タイミングが合わなかったのね。残念だったわ」


ミザエルは腹の中では苛立ちを抑えかねていたのだが、名無しにこう言われては、それもあっという間に立消えてしまった。籠絡されるとはこのようなことを言うのだろうか。ふとそのように考え、ミザエルは自己嫌悪した。一方で、名無しに対する愛おしさは際限なく高まり続けるばかりである。私も残念だった、名無しに会いたかった、という言葉が喉元まで出かかったが、辛うじて止めることができた。それは、ミザエルがほとんど命がけで守っている最後の砦である。踏み越えては戻ってこれなくなるラインはもうとっくに超えている。バリアンでありながら、人間の女を愛してしまった。そのラインを超え、なおミザエルが守っているのは、恐れているのは、愛した女に拒絶されることである。ミザエルは常に名無しのそばにいたいと思いながら、それでいていつだって一線を引いていた。仲間たちから不審に思われないように、など、結局のところ自分に対する言い訳に過ぎないのだ……。


「今日の放課後は、図書室へ行こうと思うのだけど、ミザエルも来ない?」


ミザエルは頷いた。内心の激しい歓びを必死に隠しながら。



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