ごちゃまぜ

□朝寝鮫
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神代凌牙は苛立っていた。真夜中の三時であるにも関わらずいまだ一睡もできない自分にも苛立っていたし、何より隣で呑気に寝息を立てている名無しに対して苛立っていた。もう何度目かわからない寝返りを打つ。とっくに暗闇に慣れてしまった凌牙の瞳は口を小さく開いて眠っている名無しの寝顔を映した。凌牙は眉根を寄せて奥歯を噛み締める。普段はこの上なく愛しいと思っているその顔も、今は憎らしさしか感じない。

その時、名無しの瞼がゆっくりと持ち上がった。凌牙は少し驚いて、名無しと目を合わせる。名無しはぼんやりとした瞳のまま言った。


「眠れないの?」


如何にも眠たげな声であったが、しかし凌牙を案じている物言いだった。その声に凌牙はつい今しがたまで抱いていたはずの憤りが溶かされていくのを感じ――なんでこんなことで……コイツは数秒後にはまた夢の世界へ戻っちまうのに。内心を隠して凌牙はわざと冷たく「別に」と返して布団を頭まで被った。


「私ばっかり寝ちゃってごめんね…」


凌牙は何も返さずに目を瞑った。





















「ほらほら、凌牙!早く起きないと遅刻するよ!」


開け放たれたカーテンから差し込む光が眩しい朝、既に制服に着替えた名無しが布団に潜り込んだままの凌牙に呼び掛ける。もう何度目になるだろうか。布団は時折もぞもぞと動きながら「うう」とか「んんー」とか呻き声のようなものを漏らす他は一切の反応を見せない。痺れを切らした名無しが勢いよく布団をひっぺがすと、青い顔で目を瞑ったまま眉間に皺を作っている凌牙が唸った。


「……イラッとくるぜ……」



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