ごちゃまぜ

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そして翌日。緊張の面持ちでトロンの家の玄関前に立っていた。家族が帰ってくるのにベルを鳴らすのは不自然だからということで、ベルは鳴らさないことになっている。借りている鍵で扉を開けるのだ。トロンは息子たちには今回のことは何も話していないと言っていた。二週間自由の身になると言っていたので既に家にはいないだろう。トロンは、息子たちは名無しを家族と認めるだろうと言っていたが果たして本当だろうか。勝手に入って不審者だと思われないだろうか。そんな心配は昨日のうちにトロンに打ち明けてある。しかしトロンは大丈夫の一点張りだった。名無しは躊躇った挙げ句、恐る恐る鍵を差し込んだ。
トロンの家は広かった。とりあえずトロンの部屋を目指そうとしたところ、正面からやってきた息子の一人に出くわしてしまった。ピンク色の可愛らしくカールした髪と優しい瞳、その特徴からいって末息子のVに違いなかった。Vは名無しと目が合うと微笑んで、

「お帰りなさい名無し」

と言った。名無しはその不自然な自然さに驚愕しながらも、小さく「ただいま」と答えた。

「さっきお茶を淹れたところです。良かったら名無しもどうぞ」
「う、うん…」

Vは名無しをリビングへ連れてきた。そこでは残り二人の息子たちが、各々紅茶を飲みながらリラックスしているようだった。

「よう名無し」
「名無し、お帰りなさい」
「今紅茶を淹れますね」

誰も知らない女が突然現れたことに驚かない。名無しは家族の一員だと、ごく当たり前のこととして受け入れている。それが名無しには不気味に感じられた。

「ええ…ありがと…って、そこのあなた、極東チャンピオンのWじゃない!」
「あ?何言ってるんだ」

Wは怪訝な顔をした。何を当たり前のことを、と言わんばかりだ。トロンから三兄弟の名前は聞いていたが、トロンの息子のWが、まさか極東チャンピオンのWだとは思わなかった。
やがてVが紅茶を運んできた。紅茶を口にしながらよく三兄弟を観察してみる。カップの片付けなどはすべてVがおこなっている。Wは有名デュエリストで忙しいし、これはトロンから聞いたのだが、Xは何か研究を行っているとかで忙しいらしい。なので雑務は全部この末の弟にまわってくるのだろう。
テレビがついているわけでもないのにみな無言だ。それなのに同じ部屋で同じ紅茶を飲んでいる。嫌い合っているわけではなさそうだが、何となく温かみに欠ける家族だと感じた。最初三人はくつろいでいると思ったが、どこかよそよそしさが漂ってて、実際にはリラックスなどしていないのではないかと思われた。
その日の夕食もVが作ったものだった。Vは食事を進める名無しに、どこか恐る恐るといった風に、

「美味しいですか?」

と聞いた。

「とっても美味しいよ。さっきいただいた紅茶も美味しかった」

それを聞いてVは心から嬉しそうな笑顔を浮かべた。その様子があまりにも大袈裟だったことに名無しは驚いた。トロンは息子の作った料理に美味しいと言わないのだろうか。


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