短編。

□If, that time(もしもあの時…)
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私があなたを知った時には
もう既にあなたの隣には彼がいた

長い黒髪、少し寂しげな瞳、女の私でさえ見とれてしまうような綺麗な顔立ちの彼

あなたの視線の先にはいつも彼がいた
誰も入り込めない程の信頼関係
ううん、もっと深いものがある事は
二人を見ていれば
分かってしまうくらいだった

彼を気遣うあなたを見てると
二人の関係を見せつけられてるみたいで
私の胸は苦しくなった

そんな事を知らずに
あなたは私に優しく話しかける
あなたと話す度に
あなたの事をどんどん好きになっていた

あなたへの思いは日毎に募り
それと同時に
あなたの隣にいる彼への、言いようのない醜い気持ちが生まれていた


自分の気持ちを伝える事も出来ず
自分の中に生まれた醜い心に戸惑い

そんな日々がどれくらい続いただろう

あなたと彼は
旅立って行った
いつ戻るとも分からない長い旅へ

寂しい気持ちはあったけれど
あなたが笑顔で彼と旅立って行く姿を見たら、笑って見送る事しか出来なかった


季節は何度も変わり
二度目の春が訪れた頃

風の便りで
彼が亡くなった事を知った
真っ先に浮かんだのは、あなたの顔だった
大切な人を失ったあなたは今、計り知れないくらいの悲しみと戦ってるのだろうか
寂しい思いをしてるんじゃないか


私は家を飛び出していた
あなたに会いたくて


何処にいるのかなんて全く分からなかった
何日も何日も探し続け
やっとあなたを見つけた


打ちっぱなしのコンクリートの冷え切った部屋の中に一人

「鬼鮫さん…」

顔を上げてこっちを見たあなたの目は虚ろでどこか遠くを見てるようだった
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