短編A
□ここから、これから
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除夜の鐘が鳴り始めた頃。
私は慣れないヒールの高い靴にぎこちない歩き方で、みんなが待つ神社へと向かった。
高校に入ってクラスメートになった五人と、こうやって初詣に行くのは今年で二回目。
去年は張り切って振り袖なんか着たもんだから大失敗しちゃって、今日はちゃんとその失敗を学習しての普段着。
と、思っていたけど、やっぱり少しはお洒落したくてお姉ちゃんから借りた靴に今更ながら少し後悔している。
「あ!来た来た!おーい、こっち」
私の姿を見つけたいの達が一斉に大きく手を振り始めた。
その中にいるはずの顔が一人いない事に私は気付き、私は人混みを掻き分けいの達の元に走った。
「あれ?シカマルは?」
肩で息をしつつ、出来るだけ平静を装いながらいのに尋ねたのは、誰にもこの気持ちを悟られない為。
誰にも言っていない私の気持ち。
「あぁ、アイツきっと寒ぃとかめんどくせーとか言って来ないつもりなんじゃない。ナルトー!シカマルから連絡来た?」
「まだ来ねーってばよ」
「ね?あんなヤツほっといて行こ行こ」
歩き出したいのとサクラに続いてナルトやキバ達が歩き出す。
私は何度も後ろを振り返りながら、その後ろを歩き出した。
「…っ!」
お姉ちゃんから借りた靴は少し大きめで、最初は軽い痛みだった踵の靴擦れは、早足で前を行くみんなに遅れないように歩いているうちにズキズキと痛み出した。
こんな人混みの中、立ち止まってしまえばみんなとはぐれてしまう。
私は痛みを堪えて歩き続けた。
でも限界…かも。
「ごめん。ちょっと先行ってて」
前を歩くいのに掛けた声は、周りの雑踏に消され届かなかったらしく、いの達はどんどん前へ進んで行った。
ここではぐれてしまったら、きっと私がいないって後で大騒ぎになりかねない。
この人の流れに乗っちゃえば案外楽に進めるかも…
人混みに向かい痛む足を一歩ゆっくりと進めようとした。と同時に腕を強く掴まれ、私は参道の端へと引き戻された。
バランスを崩して倒れそうになったところを受け止められ、その時初めてそれが誰だか分かった。
「シカマル!」
驚く私をよそに、シカマルは人混みに流れて遥か前を行くいの達に声を上げた。
「おーい!オレ達ここでリタイアすっから」
シカマルの有り得ないくらいに大きな声に、いの達だけじゃなく周りの参拝客達までもがこっちを見てる。
さっきまでいなかったシカマルのいきなりの登場に、いのやナルト達は驚きながらも、みんな揃ってニヤニヤと意味有り気な笑みを浮かべて手を振った。
「なんだアイツら。変な笑いしやがって。つーか、お前歩けるか?」
「うん。なんとか…」
私の歩幅に合わせるようにシカマルはゆっくりと歩いてくれた。
参道を少し抜ければ、人混みもなく休憩出来るベンチが並んでいる。
「去年も来たよな。ここ」
意地悪な笑みを私に向けるシカマルに、私は頷くしかなかった。
「ほら、足見せてみろ」
ベンチに座った私の前に跪くシカマル。
足首を掴まれそうになり、私は慌てその手を拒んだ。
「え…大丈夫だよ。少し休めば歩けるから」
「大丈夫じゃねーだろ」
強引に掴まれた足首。
踵には血が滲んでいる。
「…ったく。お前は学習能力ってもんがねーのかよ」
「ごめん…」
去年の大晦日も私とシカマルはこの場所にいた。
張り切って振袖を着て行った私は案の定、人混みと着慣れない振袖に苦しくなった。
それに一番先に気付いてくれたシカマルが、さっきみたいに私をここへ連れて来てくれたのだった。
「謝んなっての。それよか、ハンカチ持ってるか?」
私はバッグの中からハンカチを取り出しシカマルに渡した。
「ちょっと待ってろ。今これ濡らして来るから」
そう言って走って行くシカマルの背中を見送りながら、改めて思った。
シカマルが好きなんだと。
去年の大晦日までは、なんて事ないクラスメートの仲の良い男子の一人だった…はず。
好きだって気づいたのはつい最近。
きっかけは間違いなく去年のこの場所。
あの時から私はどうしようもないくらいシカマルを意識してしまう。
暫くしてシカマルが戻って来た頃には、新しい年を祝う花火が新年の夜空を彩っていた。
「この花火お前と見んの今年で二回目だな」
「うん…」
申し訳ないような気持ちで返事をした私の声は小さかった。
「来年もここで見てたりしてな?」
ニヤリと意地悪に笑いながら私を見るシカマルに、私はぶんぶんと頭を横に振って否定した。
シカマルが残念そうな顔をしたように見えた。
まさか…ね。
「オレは来年もここで花火見てーけどな」
花火が上がる夜空に向かいシカマルが呟いた言葉を私はたぶんずっと忘れない。
「…お前と」
この場所から始まった私の恋
これから始まる二人の恋
end