gift。
□瞬間
2ページ/2ページ
周りから見たら私達恋人同士に見えてるかも。
やだ私、何考えてんだろ。
「気持ち悪いんスか?」
恥ずかしくなり俯いた顔を覗き込まればっちり目が合い、自分の顔が赤くなるのが分かった。
「だっ、大丈夫だから」
とっさに視線を逸らした私を見て彼は小さく吹き出す。
「な…何?」
「顔。すげー赤くなってるんスけど」
「え!」
通りのショーウィンドゥに映った私の顔は有り得ないくらいに真っ赤だった。
「いや、あのこれは」
必死に赤い顔の理由を話そうとしても、上手い理由が思い浮かばずしどろもどろになる私。
それを見て彼はまた笑い出す。
「おもしれぇ人っスね」
「うん。よく言われる」
褒められてるのか馬鹿にされてるのか、そんな彼の言葉も何故だか嬉しくて、私も笑ってしまった。
しとしと降る雨の中、傘の下二人歩きながら他愛もない会話の中で、彼の事が分かる度に嬉しくなる。
誰かの隣を歩くのが、こんなにも心地良いなんて知らなかった。
駅が近付く程に賑やかになって来た街並み。
もう後少しで駅に着くという時に、彼が何かを思い出したように足を止め、隣にいた私の足も自然に止まった。
「どうかした?」
「ちょっと待ってて下さい」
終電間際家路を急ぐ人達の間を彼は器用にすり抜け、通りの向こうに走って行ってしまった。
一人残された私はそこから動く事も出来ず、不安になりつつも目の前を行き交う人達を眺めながら彼が戻るのを待っていた。
暫くして、人通りの中見えて来た特徴のある髪型。
雨から庇うように花束が抱えながら走るその姿が可愛らしく、私は笑みをこぼさずにいられなかった。
抱えられた花束の意味なんて考えもせずに。
「これ」
目の前にぶっきらぼうに差し出された花束。
「私…に?」
「今日、誕生日でしたよね」
少し伏し目がちに照れながら頭を掻く彼。
黒く長い睫毛に滴る雨粒がキラリ光りながら落ちて行く。
治まっていた心臓がざわめき始める。
ゆっくりとそして徐々に加速しながら。
「ありがとう」言わなければいけない言葉を頭では分かっているのに、私の口から出た言葉は
「好きです」
自分でも驚くくらいにすんなりとその言葉は私の口から零れた。
触れる肩にざわめく胸も、心地良い隣も、その言葉で全て納得した。
彼を初めて見つけた瞬間から、きっと私は彼を好きになってたんだ。
驚いた彼の表情。
返事なんか期待していなかった。
だって出会ってまだ数時間なのに、好きだなんて普通なら有り得ない。
「ずるいっスよ」
「え?」
彼は不機嫌そうに唇を尖らせ、差し出していた花束を引っ込めた。
「そういうのは男が先に言うもんでしょう。なんか先越されて格好つかねーんだけど…」
引っ込められた花束が、もう一度私の胸に差し出された。
「好きです」
差し出された春色の花束を潤すように落ちる私の涙。
「そっちの方がズルいよ」
困ったように笑う彼に、つられるように私も泣きながら笑っていた。
「やっぱりおもしれぇ人っスね」
「うん。よく言われる」
ほんの数十分前に交わした同じような会話に、私達は顔を見合わせて笑いあった。
数時間前、初めて会った私達が思いを通じ合えた瞬間。
まさかお互いが同じ思いだなんて、思ってもいなかった。
だから、これってきっと奇跡の瞬間。
電車を待つホームでぎこちなく繋がれた手から感じるのは、彼の温もりと幸せの予感。
私達の物語が始まった瞬間。
end
めちゃめちゃ遅くなったけど…
ルナちゃん
Happy birthday!
.