宝夢。

□さすがに射程圏外です
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”これ、やるよ”

幼稚園の遠足、動物園に向かうバスの中で突然男の子がアタシの膝の上に

ぽん

小さな箱を置いた。

新米保育士のアタシはまだクラスを受け持ってなくて、今日は研修も兼ねて年長児クラスと一緒に行動するようにと園長先生からの指示だった。

「え、なに?」

「すこんぶ、うめーからくってみろ」

そう言ってふい、窓の外に視線を移す男の子。

「・・・ありがとう」

アタシは小さくお礼を言って膝の上に置かれた箱を見た。


『なら しかまる』

そう、名前が書きこまれている。

そうか・・・持ち物には必ず名前を書くようにって言われたもんね。

うんうん、いい子いい子。

でも・・・だからっておやつにまで書かなくてもいいと思うよ?

まぁ、子供らしくて可愛いけど。

なんて、ひとりふふっと笑えば

「あの・・・これ、どうぞ」

同じバスの中、通路を挟んで反対側の席。

バスに酔ったのか、青ざめた顔の男の子がアタシの前にえびせんを差し出した。


「あ・・・りがとう・・・ねぇ、もしかして気持ち悪い?大丈夫?」

「だいじょーぶです」

”あの・・・いつもかおいろわるいっていわれますけど、でもこれふつうですのでどうぞおきになさらずに”

妙に丁寧な口調でそう言ってにっこり笑う男の子。

差し出されたえびせんには

『ほしがき きさめ いご おみしりおきを』

そう、書かれていた。

以後、お見知りおきをって・・・ちょ、もしかしてこれは幼稚園児の間で流行っているナンパ術?

アタシは二人にもう一度


「ありがとう」

にっこり笑ってお礼を言うと、酢昆布とえびせんをリュックの中にしまった。

シカマルくん、鬼鮫くん・・・先生さすがに20も年下の男の子には興味ないんだなぁ、ごめんね。



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