目隠しをされた。 暗闇の中、俺の視界はゼロだ。 さらに無音。世界って寂しいんだな。 「さぁ、バクフーン」 「!」 唐突に声がかけられた。 知らない男の、いやらしい声色。やめろ、気持ち悪い。 「見えぬ敵を、殺せ」 「ひっ、」 そう言われると、おそらく、位置で言うなら目の前数十メートル先に怯えた声が聞こえた。 まだ若い、むしろ幼い子供。女の子の声だ。 「早くしろ。燃やせ」 命令するんじゃねぇ。俺はそのためにここにいるわけじゃねぇんだ。 じっと動かずに女の子に意識を向けておく。 向こうさんは怯えきっていて、動く気配すらない。 一歩、前に出てみた。 ひっ、と怯えた声がした。 「や、やぁ……っ!」 俺は、この子の顔が見たかった。 この子を傷付けるなんてしたくなかった。 怖がるなよ。 なぁ、俺の声、届かねえの? 男の声なんかもう聞こえてなくて、目元に手を伸ばす。 目隠しなんか取ってやれ。この子を守ってやりたい。 でもいくら伸ばしても引っかいても、布や紙や、自分の目を覆ってるものなんかなくて。 そして、思い出した。 "この女が、俺の目を奪ったんだ" 音が止んだ。 もう、何も聞こえなくなった。 これで良い。あとは遠くで聞こえる音だけを、聞いてやろう。 音だけを感じて (その日、一つの研究所が、全焼した) (中に居たものは、全て灰になってしまったという) |