忍だって夢を見る。 短時間で熟睡し、気配を察すれば即座に覚醒する。 そんな訓練を受けた身でも、時には夢を見る。 ビンゴブックの相手を殺めた夜に、真っ赤な影に追われる夢を。 闇に呑まれたサスケが木ノ葉に襲い来る夢を。 大切な兄の亡骸が藻屑のように崩れる夢を。 サクラが、カカシが、大切な仲間が倒れ、守れずに泣き狂う夢を。 声にならない叫びで飛び起き、夢だと気付く瞬間、治まらない鼓動、吹き出る汗、夢に安堵するよりも悲しみに押し潰されそうになる、その刹那に。 「大丈夫?」 サイの声が。 「お前こそ、大丈夫か?」 ナルトの声が。 聞こえた瞬間に、ようやく悪夢から解放される。 「怖い夢を見てたんだ」 「オレも…」 「ただ怖いだけじゃなくて…」 「悲しかったんだよな?わかるってばよ」 そう言い、顔を見合わせて、それから互いの胸元に触れる。 激しく波打つ鼓動が、少しずつ、少しずつ、穏やかにそして緩やかになり、やがて平静を取り戻すまで。 互いを労るように、ただそうして待っている。 平静さを取り戻し、それからようやく頬に触れ唇を落とし、髪を撫で胸元を合わせ、体温を重ね合わせる。 「もう大丈夫だよな?」 「ナルトもね」 「おう」 忍だって、辛い夢を見る夜がある。 辛い夢を見る材料なんて、幾らでも持ち合わせているから。 乗り越えた筈の過去も、意識下に眠る懊悩も、夢の中で突如として形を表す夜がある。 そんな時に、サイがいてくれるから、ナルトがいてくれるから、互いにそう思い合えていることが救いになる。 「もう一回寝直すか?」 「そうだね、夜明けにはまだ早いようだし」 今度は悲しい夢に取り込まれることなど、ないように。 「おやすみ、ナルト。よい夢を」 「ああ、おやすみってばよ!サイ、いい夢見ろよ!」 「うん、今度は君と仲良くしている夢をね」 「バーカ、それは夢じゃねェ、ゲンジツだってーの!」 そうだ、今度は、きっと。 よい夢が見れそうだ。 手をそっと握り合って、二度目の眠りにつく。 よい夢を、おやすみ───── ************************************************************************************ 3/11から、なかなか時計が進まない中。 何かを書こうとすれば、浮かぶのはシリアスな話ばかり。 無理やり明るい話やギャグやラブラブを書こうとしても、結局何も出来ず。 10日が過ぎ、やっと、心に浮かぶものを素直に文字にしようと思えるようになりました。 ある夜、二人同時に悪夢にうなされ、そして二人同時に目覚めて。 落ち着きを取り戻す中で、互いの存在を確認しあう。 君がいるから大丈夫 お前がいるから大丈夫 そして安堵の吐息をつき、安心して眠れるんです。 よい夢を、と。 安心して眠れる夜が、一日も早く訪れますように。 そう願いを込めて。 |