BRAVE10短編

□笹の葉、さらさら
2ページ/5ページ




その日は良く晴れていて、昼間の暑さがまだ部屋に残っている。
寝付けもしないので、涼もうと障子を開けて軒に出る。


見上げれば、息を呑むほどの星空が広がっていた。
手を伸ばせばとどきそうな、とはよく言ったものだが、本当に星空がすぐそばにあるように感じる。

そういえば今日は七夕だったか。




縁に腰を下ろして、煙管に火をつける。
紫煙が星空に浮かんでは消える。

その行く先を見つめ、ぼーっとしていると、後ろから足音が聞こえた。




「六郎か」
「はい」




浴衣姿の六郎がスッと隣に正座する。
相変わらず用意がいい。お茶を淹れてきたようだ。
盆がすぐ傍に差し出される。

と、盆にお茶のほかに何か乗っているのに気が付いた。




「・・・これは?」
「今日は七夕でしょう?若も一枚いかがかと思いまして」




綺麗な色の短冊2枚と、硯に筆。




「・・・2枚?」
「あ、はい・・・あの・・・」
「六郎の分かのぅ・・・?」
「いえ・・・その・・・」




六郎は躊躇いがちに口を開く。
酷く言い難そうだ。




「その・・ですね・・・才蔵達が、二人で書け、と・・・」




心なしか顔を赤くして六郎が言う。
なるほど。あいつ等も粋なことをしてくれる。




「これは後でじっくり考えようかのぅ」




一枚短冊を取って、少し考える。




「・・・六郎は何を書いたんだ?」
「私、ですか?」




問われた視線は宙を彷徨い、そして膝に落ちた。




「・・・にと・・・」
「良く聞こえんのぅ」




六郎は顔を少し赤くして諦めたように言う。




「若と、皆と、長く共に、と・・・」
「なんじゃ、つまらんのぅ・・・」





『若と』と入れたことに関しては素直に嬉しい
だが、何故そこに『皆と』を入れる。
いや、全く間違ってはいない。
だが、だが。
心の中にちょっとした復讐心が燻る。




「こうなっては致し方ないのぅ」




筆を取ってすらすらと走らせる。
短冊に綺麗な文字が現れていく。




「!!」




それを見ていた六郎の顔がみるみる赤くなる。




「わ、若っ!!」
「しっ、静かにせんか」




主にそう言われては、六郎は鯉のように口をぱくぱくさせながら黙るしかない。




「ほれ、せっかくあいつ等が気を利かせてくれたのだからお前も考えろ」




そう言いながらも、六郎に選択権など無く、すらすらと短冊に書き込んでいく。
それはちょっとした願いだったが、六郎が顔をますます赤くしたことは言うまでもない。




「うーむ・・・本当の願いは人に見せると叶わぬというしのぅ。これは笹舟にでも浮かべるか」




そう言うが早いか、幸村は中庭に笹を一枚採って、器用に笹舟を作る。




「六郎、いつまでも鯉のような顔をしているでないわ。少し外に出よう」




主にそう言われてやっと、六郎は少し、いつもの冷静さを取り戻したのだった。






















次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ