BASARA短編
□晴天
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「よっ、お市さん、今日も綺麗だね」
にこにこと笑いながら、慶次はお市の隣に腰を下ろす。
「・・・おはよう」
つられて市も笑顔になる。
近頃利家に連れられて織田の城に出入りすることの多い慶次は、必ず市のところに顔を出すことにしている。
人に懐くことの少ない市にしては珍しく、慶次には良く懐いていた。
慶次が頭をなでると、くすぐったいのか目を瞑って身動ぎする。
「おぉ、そうだ。今日はお市さんに合わせたいやつがいるんだよ」
「? だぁれ?」
こくりと首を傾げる動作が可愛らしい。
慶次はにっと笑うと、袖の中をごそごそと探す。
慶次の手が袖から出てくると、そこには小さな小猿が丸くなって眠っていた。
「可愛い・・・」
市はきらきらと目を輝かせている。
その様子に満足したように慶次が笑う。
「だろ?夢吉っていうんだ。
母猿とはぐれたみたいでさ。利とまつ姉ちゃんが山で拾ってきたんだ」
「そう。前田様に拾われて、幸せね」
市が夢吉の頭をそっと指でなでる。
と、夢吉は小さな手でふわふわと宙をかき、市の指に手が触れると、そのままぎゅっと抱きついて、安心したようにまた眠り込んだ。
「母ちゃんが恋しいんだろうなぁ」
「・・・」
この子も、心の中ではきっとまだ、独りぼっちなのだろう。
市と同じ・・・
ぽふっと、慶次の手が市の頭の上に置かれる。
「慶次?」
「夢吉は今は寂しいって思ってるけどさ、でも、いつかきっと俺のこと家族だって思ってくれると思うんだ。
お市さんもさ、俺のこと、家族だって思ってくれていいんだぜ」
にっと笑いながら、慶次は言う。
市は寸の間、ぽかんとしていたが、段々、顔に笑みが広がっていく。
「うん」
にこりとはにかみながら笑う。
その顔は普段とは違って、とても幸せそうであった。
「けーじー!帰るぞー!!」
遠くから、利家が呼んでいる。
「あー、お市さん、今日はもう帰るよ」
「うん・・・」
寂しそうに俯くお市に、慶次はにっと笑って頭をなでる。
「またなっ」
「・・・うんっ」
慶次はその笑顔を確認してタッと駆けて行く。
お市はその後姿を小さく小さく、見えなくなるまで見送った。
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