TiTle
□わたしはずっと痛がってる。
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いつも誰を見ているの?なんて聞けない。
行為後の気怠さに身を委ねながらいつも思っているのに私に背を向けてタバコを吸う広い背中を見て聞くのをやめてしまう。
トシは仕事が落ち着くとふらりと私の部屋に来てご飯を食べて身体を重ねる。時々デートらしき事をするしそれで満足しているけど気になることがある。
行為をしてる時、トシは目を瞑る。まるで全てをシャットアウトして自分の世界に潜り込んでいるみたいに。
私はそれを見ながら身体は繋がっているのに気持ちは1人取り残されたような寂しい感覚になる。
今日も1人だった、ぼんやり考えていると起きた気配を察してトシが灰皿にタバコを押し付けて顔だけ振り向く、仕事では見せない穏やかで優しい私が一番好きな表情。
「起きたか。なに見てんだ」
「んートシの背中」
「そんなの見て楽しいかよ」
くつりと笑われたのが少しだけ悔しくて重い身体を起こしてトシの背中にいくつもある傷跡をつ、となぞると肩をびくりと震わせた。
「傷だらけ」
「お前変な触り方すんなよ」
「普通の触り方してるのに」
「やらしいんだよ」
無心で傷跡をなぞっていたらトシは振り返って優しく私の右手を掴んでシーツに沈めた。まだ足りないらしい、空いている左手でトシの頬に触れると黙ってじっと見下ろす目つきが悪くて笑ってしまう。
そろそろ屯所に戻るんじゃないの?頬をゆるりと撫でながら聞くと、どうせまだ誰も起きちゃいねぇよと口元を上げて首筋に唇を寄せた。
「ねえ、トシ」
「なんだよ、今更嫌だとか聞けねぇからな」
熱を取り戻そうとトシの唇と大きな手が優しく肌をなぞっていく。違う、言いたいのはそんな事じゃない。
「トシは……誰を見てるの?」
「何か言ったか?」
「……なんでもない」
小さく小さく呟いたけど聞こえて無かったらしい。多分、聞こえない振りをしてるんだ。
また自分の世界に潜って1人にするのか。ぷつりと積み重なった寂しさが弾けて思わずトシの両頬を掴んで引き寄せた。私の行動が意外だったのかトシの目が大きく見開いた。
「目、瞑らないで」
「……悪い、それは出来ねぇ」
トシは私の言いたい事が分かったのか沈黙の後に小さく呟いた。合わされた目は悲しそうに何かを耐える互いの表情が映っていた。
なんて表情してるのよ。それ以上はなにも言えなくて行為の続きを促すようにトシの薄い唇に自分のそれを重ねた。
ちゃんと私を見て、誰にも重ねないで
この言葉を言えたら楽なのに心にしまいこんで私はトシを受け入れる。時折降って来る唇からはいつものタバコの苦い味が広がっていく。
Title:確かに恋だった
2017/2/23 執筆