TiTle

いつかは届くといい
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がむしゃらに頑張っている奴を見ると、その鼻をへし折ってやりたくなる。我ながらどうしようもない性分だ。

「何してんでィ早く行きやすぜ。もしかして足でも捻ったんですかィ?」

「捻りましたよ!隊長に足ひっかけられて盛大に転んでる状態ですよ」

最近1番隊に入った井川四季。俺はこいつを叩き落としたくて地道に嫌がらせをしてるけど土方並みにビクともしねェ。今日は巡回が一緒だからと井川が油断した所で足引っ掛けて転ばして今に至る。

「なに言ってんだ足元ちゃんと見てねェお前が悪りィだろ」

「すみませーん加害者隊長なんですけど。ご自身に身に覚えある筈ですけど?」

「俺がいつ足出した?こんなのも避けられねェのは普段の稽古が身に付いてねェ証拠だろ。真面目にやって無ェから足捻るんでィ」

「なっ真面目にやってます!隊長は毎朝寝てるから知らないだけですよ」

威勢よく反論してきたのにだんだん語尾が萎んでしまいには俯いて「……明日は頑張らなきゃいけないのに」と小せぇ声で半べそになりながら呟いた。

前から追っていた攘夷浪士のアジトが見つかって突入は明日の夜に決行される。1番隊も全員出動する事になって普段は待機部隊と言う名の留守番の井川にも声がかかっていたからこいつの気合いの入りようは人一倍強かったのも知っていた。

女で剣のやり手。しかもクソ真面目な性格で書類から何から完璧。入ってきたばかりの完璧な新入りにやっかむ連中がちらほらいるのは知っていた。

こいつもちゃんと落ち込むのか。その姿を望んでいたのにいざ目の前にすると全然スッキリしねェや。俺は座り込む井川の前に屈んだ。

「何寝言言ってんだ。こんな嫌がらせされても怪我しても折れねェのが井川だろ?俺ァあんたのそう言う所を見込んでこの隊に入れたんだけどねィ。あーあ、どうやら見込み違いだったようだ」

「完全に認めましたね……やっぱり女の私なんかが剣を持っちゃいけなかったんですよ。隊長だって本当はそう思ってたんですよね」

そう言って完全に俯いちまった。女だからと陰口やら嫌がらせをされていても嫌な顔一つしなければやり返しもしない。澄ました顔で淡々と仕事をこなしながら内心じゃ……面倒くせェなこいつ。俺は井川の頭を掴んで言ってやった。

「誰がそんなこと決めたんでィ。剣には男も女も無ェだろうが。自分で言ったことも忘ちまったか?とんだ脳みそ持っていやがんな」

私、剣を持つのに性別は関係ないって思ってます。前に稽古していた時に言っていたのを近藤さんはえらく感動してたのを覚えている。

「なんでそんな事覚えて……」

「明日はそれを証明してみせろ。できなきゃ一生俺のパシリにしてやらァ」

その言葉が意外だったらしい。俯いていた顔を上げてキョトンとした井川にちょっとイラっとしてデコピンを食らわすと少しだけ顔を歪めてから涙が溜まっていた目元を乱暴に拭って俺を睨んだ。

「隊士を怪我させておいて出動させるってとんだブラック企業ですね」

「上司が土方なもんでこればっかりは仕方無いんで「受けて立とうじゃないですか」

「あいつらよりも良い仕事をすればいいんですよね?やってやりますよ。ずっと馬鹿にされるのは悔しいですから」

切り替え早ェな、踏んでも踏んでも起き上がるなんて雑草かよ。全く面倒くせェのを引き入れちまったようだ。

「気合い入れすぎて足手まといにはなんなよ」

「隊長こそ足引っ張らないでくださいよ」

「やっぱ訂正。今日以上に怪我して足手まといになったら即お前を叩き斬ってやらァ」

「望むところです」

俺を見上げて挑むような目つきで口角を上げてニヤリと笑う井川は立派な侍に見えた。
我に返って、しまったいつもの打たれ強い井川に戻しちまったと少しだけ後悔した。

「部下の癖に生意気なんだよ。ほら屯所に戻りやすよ」

「あの隊長、手、貸してくれませんか?」

あれだけの啖呵切った後だったからか気まずそうな顔で頼んで来やがった。仕方ねぇ原因は俺にもあるしと手を差し出すとおずおずと握られて、こんな時は女の表情に変わんのかと面白く思いながら手を握り返した。

「俺の助けは高くつきやすよ」

「明日、倍で働くつもりなので構いません」

握られた手は女のそれなのに所々が硬くなっているのは日頃の稽古の賜物だ。立ち上がらせてから井川は「ありがとうございます」と言って足を庇いながらひょこひょこと先に行っちまった。

「本当、可愛気のねぇ奴」

俺の独り言が聞こえたのか井川が振り返ってにこりと笑った。
やっぱりポッキリ折ってやればよかった……明日は希望通り馬車馬のように働かせてやらァ。俺はそう決意して立ち上がってゆっくりと井川の元へと歩き始めた。

title:casa
2017/1/20 執筆


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