青い妖精
□第三話
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side―アン―
ファントムハイヴ家に迎えられて数ヶ月。
初めの内はセバスチャンの後ろをついて回っていたけれど、1ヶ月もすると大抵の事は独りで出来るようになった。
まあ、先輩使用人ズが起こす問題は対処しきれないため、セバスチャンに任せているけれど……
今日も、この2、3ヶ月で日課になりつつある大量の手紙の束をシエルの部屋まで届けていた。
コンコン
「入れ」
『失礼します』
部屋に入って来た私が持っている物を見た瞬間、シエルは心底嫌そうに眉を寄せた。
それには気づかないフリをして、何気ない表情でセバスチャンに束を手渡す。
「坊ちゃん、本日もお手紙が届いておりますよ」
「もう社交期も終わると言うのに暇人共め」
『シエルは人気者ね』
「冗談じゃない」
シエルは頬杖をついて、ウンザリとしたように手紙の束に目をやった。
「くだらない舞踏会に夜遊びの相手探し…ロンドンはロクなことがない」
『じゃあ、私が代わりに出てみようかしら?』
冗談交じりで言うと、一瞬だけ眉をしかめて「やめておけ。ロクなヤツがいないからな」とシエルは言って手紙に手を伸ばした。
「ワーウィック伯爵、バーズ男爵、ガートランド伯爵夫人……」
名前だけを読み上げながら放り投げられる手紙を、せめて床に着く前に拾っていく。
セバスチャンはシエルの後ろで、お断りリストに次々と名前を書き込んでいく。
今日も全て放り投げられるだけで終わるのだろうと思っていると、突然シエルの動きが止まった。
『シエル?』
「これは…」
不思議に思って近づくとシエルの手には、珍しく一通の手紙が握られていた。
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