青い妖精
□第二章
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side―セバスチャン―
― 執事の朝は早い
夜は誰より遅くに仕事を終え、朝は誰より早く仕事を始める
それが屋敷を一切仕切る執事の勤めである ―
鏡の前でネクタイを締めていると、髪に目が留まる。
「随分髪が伸びてきましたねぇ…」
髪を弄っていると、頭に小さな主人の顔が浮かぶ。
「…嗚呼、勝手に縮めてはいけないんでしたね。人間というのはどうにも面倒だ」
長くなった髪を耳に掛け、燕尾服に袖を通す。
「さて、参りますか」
まず始めに使用人に一日の仕事の指示を出さなければ…
「…嗚呼、いけませんね」
あることを思い出し、歩みを止める。
「私としたことが…1人忘れていました」
来た道を戻り、目的の部屋へと向かう。
途中で紅茶を持って、扉の前で立ち止まる。
コンコン…
「失礼します。アン様お早うございます」
扉を開けると布団がモゾモゾと動いた。
カーテンを開けると、眩しそうに目を細めながらアン様は起き上がった。
『…いい香り』
「どうぞ。紅茶しか用意してませんが…」
『私が紅茶だけで良いって言ったの』
紅茶を受け取ると、アン様は美味しそうに顔を綻ばせた。
「…本当に坊ちゃんとは大違いですね」
『え?』
「何でもありません」
そう答えると、アン様は不思議そうに首を傾げながら再び紅茶を口に運んでいた。
「では、着替えてください」
ティーカップを受け取り新しい服を差し出すと、『げっ』と言う声が聞こえそうな顔をした。
こうゆう表情は坊ちゃんとそっくりですね。
『…どーも、この服は慣れないわ』
「この時代の女性の人なら皆さん着ています」
そう言うとアン様は、渋々着替え始めた。
『セバスチャン、コレいらないわ』
着替え終わったアン様は、コルセットを私に投げ渡した。
「しかし、一応…」
『そんな物、必要ないわ。私、スタイルは良いもの』
そう言って笑ったアン様は確かに14、5歳にしては、豊満な胸に引き締まった腰つきをしていた。
『これからは用意しなくていいから』
「はぁ…かしこまりました」
ため息混じりで答えると、アン様はニコッと笑った。
『それじゃあ、案内よろしくね』