L'eacute;pave de l'amour

雪原に祈りを込めて
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雲のない薄青の空
雪の上に落ちる薄い影
果てしない雪原の中を
君と二人きり進む


「――聞いた、ことがあるんです」
「…何をだい?」
「白という色は弔いの色――喪に伏せる色だ、と…」
「――――」
「もし…その通りならこの地―この国は常に喪に伏しているのでしょうね」
「そんなこと、無い、と、思うよ」
「…ありがとうございます――…けれどこの場所は永久凍土と呼ばれる地ですから…」
「…永久…凍土?」
「ええ…この地は春が来ても、夏が来ても…決して雪が解けることはないんです――…」


音も無く雪がちらちら燃える
空は哀しみの灰色
白い世界は時間が凍りついている


「――着きました」

薄氷に飾られた墓標

「此処で」

灰色の空と白い大地

「彼が」

過去を想う君の横顔


時の凍った世界はようやく動き出した


「ただいま……」

右手には炎めいた決別の薔薇を
左手には君が自由を託した銃を

「お久しぶり、ですね…」

口元には懐古と郷愁と懺悔の笑みを


膝をついて祈る
瞳を閉じて深く君は祈る
君の祈りは何に対してだろうか

僕も祈る
膝を折り胸に手を当て
君が此処に居ることを感謝する
生きている今に感謝する

そして君の過去に安らぎ
未来に幸せを
君という命に祝福を


深く祈る


やがて薔薇は凍って散り
雪原は牙を剥く
雲は渦巻き吹雪を呼ぶ

最後に君は金のロケットを捧げた
君の哀しみの象徴
君を縛り付けた金の鎖

もう一度君は膝を付いて祈る

いずれ朽ちていくその墓標に
君は君の国の言葉で別れを告げた


「         」


哀切のような思慕のような
悲しみのような憐れみのような
美しい胸の痛くなる響きが
白い世界に高く流れ―雪原に散った

言葉は白い塊となって
風に運ばれ雪原に還っていく

吹雪はやがて雪原を呑み込むように
まるで何かを弔うように慟哭するように
全てを塗りつぶすように吹き荒れる


「さあ――行きましょう」


きっと君はもう過去に囚われはしない
その瞳が見つめているのは
『希望』と言う名の美しい歓喜の春


君と歩みながら僕は思う


雪原の中で朽ちていく十字の墓標
血のような炎のような深紅の凍った薔薇
かつて自由という名のもとに人を殺めた黒い銃
君の心を縛り付けていた金色の美しく哀しいロケット

白い雪原を僕は忘れない

もしも本当に白という色が弔いを意味するのならば
君の過去の何もかも呑み込んで弔って欲しいと
君の過去を純白に塗りつぶして欲しいと
この白い雪原へと祈るように祈った
.
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