story


□願
2ページ/14ページ

-
第一章「困惑の朝」
















「宴を始めよう」

王の声で盛大なパーティーは始まった

それと同時に鳴り響く、グラスがぶつかる音

白と黒で飾られた窓や天井は、厳かな雰囲気を醸し出しているが

決して誰かの死を悲しむわけでもなく、人々の笑い声や旧友との再会に湧く声は止むことを知らない

テーブルにはこの国の富を表す、豪勢な食事

広い集会場を埋め尽くす人の属は様々で、

黒ダイヤから相対する白ダイヤまで、階級を問わず、平等な振る舞いを皆受けていた




そんな中で一人、気分の沈みともとれない溜息を漏らしている者がいた

彼の名はハノン

中立を意味する灰色で統一された衣服

その中で浮足立つ黄色い髪と粋な黒の目

容姿から察せるように、下級部族の若き使者である

そして、その溜息の根源は隣の少女ーユアであった

ユアは黒いワンピースに、同じく黒のウエーブがかかった髪、そして目

黒ダイヤの中でも上位に君臨する黒魔族の孫娘である


そんな二人は、周りの賑やかな様子とは異なり、絵のように身固まっていた




少年の方は食事が置かれた縦長のテーブルの下で、

ひっそりと隠すように繋がれた手を、愛おしく見つめている

また、少女の方は頭を少年に預け、何処でもない遠くを虚ろな目で見つめていた


その原因は、やはり二人の位の違いだった

だいたい地位の異なる者が、親密な関係になるなど許されぬことであった

例え、主と使者でも

いや、主と使者なら尚更




そして、目に広がった景色が

また二人を錯乱させる




目の前に座った少年達

この二人もまた、主と使者の関係

違うのは自分たちとの思いだけ

やがて、儀式の時が来たことを知らせるため、

主の執事が耳打ちをする

二人は拒絶なしに立ち上がり、お互いを支え合って扉へと歩き出した

一歩、一歩、

生死の境へと




今日は彼ら

明日は二人




唐突に降ってきた現実に、二人は憔悴しきっていた


これから失われるであろう体内の水分を補うためか、

ふいに少女は、水の入ったグラスに手を伸ばす

心なしか、震えているように見えた

その手はグラスを掴むと、少年のグラスに音を鳴らして乾杯をした

(お祝い・・・)

高音が二人だけの静寂に響く

見目でも分かるように、無表情の少女

その目は冷たくなり、俯く

嘘を吐いた時の彼女の、癖

決して人を傷つけはしない、嘘

自分に吐いた嘘なのだから

悟った少年はもどかしさに駆られ、

思わず少女を抱きしめる

「君が好きだから、」

(だから・・・・・・)

その後は言わなかった

自分の死を受け入れて、なんて言えない

言ってしまえば、傷口はまた、広がることが分かっていたから




そして、これが初めての意思の疎通だった

本来ならば、歓喜にあふれるはずの言葉も、

少女にとっては、やがて消えていくものとしか捉えられなかった




心の内を感づかれる前に、

今度は少女が酷く疲れ切った口調で呟く

「だめだよ・・・

嫌いになって、くれなきゃ・・・」

それは苦渋に満ちた偽りの心

過去の長い、祈り続けた日々を捨てるような


少年は虚しく、あっさりと拒絶する

「ごめん」

(・・・解っていた、

君が僕を思うことも)


謝罪の言葉など聞きたくないよ

冷たいね・・・

(・・・解っていた、

あなたが私を思うことも)


その後、ただただ少女は泣くばかりだった

(心なんて要らないよ・・・

ただ、君に命を持っていてほしい)

自分を罪深き者だと、

少女は思った




やがてそんな二人を、周囲は哀れみの目で見ていた

(分からない)


少女は腕をすり抜けて深くため息をついた

止めどない涙を終わらせるように

少年は拭おうと頬に手を伸ばす

しかしその手は触れることなく、空を切った

いつか、

そうなるように













-
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ