DREAM =long=

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白き翼に蒼き瞳を持つ者は、

その息吹にて全てを焼き付くし、






























黒き翼に紅き瞳を持つ者は、

その爪牙にて全てを引き裂く…






























二者は、それぞれが信じ、慕い、仕える者と共に、世界を変えんと、互いに争った…






























長い…長い戦いだった…






























だがある日、その戦いに、とうとう決着が着いた…






























両者の間に降り立った、一つの《希望》によって…






























さらさらと流れる風が、木々の枝葉を優しく揺らしている。



ここは、地図には一切標される事はない、小さな小さな島。

そこは、人間により手が加えられる事もなく、そのままの自然が、しっかりと生きている。



その島の中央に佇む巨木は、樹齢千年を越えていてもおかしくはないほどの高さを誇っていた。

しかし、幹からはしっかりと枝が伸び、その枝からは、緑鮮やかな葉が、太陽の光を受け、美しく輝いている。



その根元、枝葉によってできた日陰で、寝転んでいる者がいた。



金糸のような、艶やかな髪が、木漏れ日によって煌めいている。

その人物は、頭の後ろで腕を組み、それを枕にして眠っているようだ。

そのすぐ傍らには、丸くなってその人物に寄り添う、黒い子狐の姿もある。



すると、風の音に混ざって、何者かが草を踏む音が聞こえてきた。

その音の主は、子狐達に向かって歩いてきているらしい。



子狐達の傍らに膝を着くと、声を掛けながら、横になった人物の肩を揺すった。






「主、もう昼だ。太陽もとっくに真上を過ぎた」






暫くそうして肩を揺すっていると、主と呼ばれたその人物の瞼が震えた。

ゆるゆると開かれた双眸に、多くの者は、思わず目を奪われてしまうだろう。



何故なら、その人物の瞳は、左右で異なった色をしているからだ。

右目は燃え上がる炎のように紅く、左目は全てを生み出した大海原のように蒼い…






「……ん…もうそんな時間か…」






その長く美しい髪を掻き上げ、眠っていた人物は上体を起こした。

それに反応して、人物の傍らにいた子狐も目を覚ます。

子狐は、くぁっと欠伸をして、後ろ足を器用に使い、自身の首元を掻くと、ニッと笑って、先程眠っていた人物を起こした影の肩に飛び乗った。






『おはよう、とと!!』





「おはよう、《ゾロア》…主の邪魔はしていないか?」






子狐…改め《ゾロア》は、自身が《とと》と呼んだ人物の肩で、えへんと胸を張る。






『もちろん!オイラはマスターと一緒に寝てただけだぞ!!』





「ゾロアの言う通りだ。お前のその、深く考え過ぎる癖、少しは直したらどうだ?










なぁ、《ゾロアーク》?」






ふと笑みを浮かべる己が主人に、《ゾロアーク》と呼ばれた人物は、参ったと言うように肩を竦める。

直後、その人物の体から、眩い光が発せられた。



光が止んだかと思うと、人物の姿はそこにはなく、代わりにいたのは、赤い鬣が特徴的な、黒い狐だった。






『…やはり、この姿の方が落ち着く』





「だろうな…無理に《擬人化》する必要はないぞ?」





『だが、あの姿でなければ、人間の街を歩けない…』





「幻影で誤魔化せばいいだろう」





『それでは、いつバレるか分からん。擬人化の方が安全だ』






2人(正しくは1人と1匹)の会話を聞きながら、ゾロアは、ゾロアークの鬣の中にもさもさと入っていた。

ゾロアークの鬣は、ゾロアのお気に入りの場所の1つなのである。



いつもの事である上、ゾロアーク自身、別に嫌ではないので、特に気にする事はしなかった。



そしてゾロアは、彼らの話を聞くと、鬣から顔を出し、主に声を掛ける。






『マスター!いつ出発するんだ?オイラ、すっごく楽しみだぞ!』





「あぁ。そうだな。そろそろ行こう。今から出れば、夜には《カノコタウン》に着けるだろう」





『いよいよか…旅立ち、というのも久し振りだな…』






立ち上がり、自身のコートを軽く叩いて、付いていた草や土を落とすと、彼らの主は、巨木から遠ざかるように、どこかへ歩き出した。

ゾロアークも、ゾロアが落ちぬよう、鬣に入っているように言うと、主の後ろ姿に追いつくべく、軽やかに跳躍し、その傍らに降り立つ。



ある程度歩き、まだ巨木の幹が見える辺りで立ち止まると、1人と2匹は、くるりと背後を振り返った。





「…歴史は繰り返される……これは何人も変えられぬ世の理………短い時しか生きられぬ人からすれば、気に留める事でもないだろうが…」






さて、果たして今の世に、世界を変えんとする、強固たる意志を持つ者はいるだろうか。



そう呟き、巨木から目を反らすように瞼を伏せた己の主を、ゾロアークは複雑そうな顔で見つめていた。










さぁ、いよいよ《はじまり》だ…



息が詰まるほど、心臓が大きく脈打つのを感じながら、ふとそんな事を思った。










輪廻、巡りて
現世となる




(繰り返される歴史…)
(現世―いま―に終止符を打つのは、)
(一体誰なのか…)





next…











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