Dream =Short=

□精一杯の、感謝を込めて。
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漆を塗ったように真っ暗な夜空…

ほぼ満月と言えるほど丸い月や、数え切れないほどの星達の光に照らされ、小さく波立つ海が、きらきらと光っている。

その光は、海に浮かぶ島にも降り注いでいた。



その島の中央には、現在も活動している火山が聳え、麓には、巨大な建造物もある。

この建物は《デュエル・アカデミア》。

デュエリストを志す者達の、憧れとも言える学園である。



とは言え、今はもう真夜中だ。

生徒達は既に自分の部屋に戻って、就寝している時間のため、学園内に人気はない。



そのはずだった…






「ここが…《デュエルアカデミア》…」






アカデミアの屋根の上に立つ、1つの黒い影が、そう呟いた。

その表情は、マスクとサングラスに隠れて、窺う事はできない。

ふと、海から流れ込む風が、その人影の纏うコートを、ふわりと弄んだ。






「ここにある…あのカード…《三幻魔》のカードが…」






その時、人影の呟きに呼応するように、風が吹き荒れ、森の木々や草花を激しく揺らした。

やがて、突風が止む。

だが、その頃には既に、あの人影は、どこにもなかった…






























翌日…










授業を終え、一度寮へ帰ろうと、オシリス・レッド寮生の1人、赤城 天雅は、相棒の魔術師師弟と共に、帰途に着いていた。

いつものように天雅に抱き着くマナに、マハードがもう少し遠慮するようにと、いつもと同じく彼女をたしなめている。






『マナ!それでは天雅様が歩き難いでしょう!もう少し離れなさい!』





『イヤです!今日も十代君ばっかり天雅にくっついてたんですよ!?ズルいじゃないですか!』






己の師にそう言われると、マナは天雅の腕に更にギュッと抱き着いた。

それを見たマハードは、眉間に寄せた皺を増やす。






『だからと言って、それが天雅様の歩みを鈍らせる理由にはなりません!天雅様は、毎日授業でお疲れなのですよ?』






マハードの言い分は最もである。

天雅が毎晩、授業の予習復習や、自分達が組み込まれたデッキを、更に進化させるべく、調整に明け暮れているのを、マナも知っているからだ。

しゅん、と項垂れたマナを見て、天雅はマハードと顔を見合せた。






「マハード、俺は大丈夫だから、気にしないで?」






にこりと微笑んで、そう言った天雅に、マハードは目を瞬かせる。

一方のマナは、天雅の言葉がよほど嬉しかったのか、先程の暗い表情が一変、パアッと輝かんばかりの笑顔になった。

とは言え、マハードも簡単に引き下がる事はできないらしく、困惑の表情を浮かべている。






『しかし…』





『もう、お師匠サマったら!天雅が良いって言ってるんですよ?良いじゃないですか!』





『何故マナが自信たっぷりに言うんですか!?』






こうなっては、マハードが何と言おうと、マナは天雅から離れないだろう。

何より、天雅本人が構わないと言っているのだ。

これ以上、マハードからどうこう言う事はない。






『分かりました…ですが、天雅様の邪魔になるようなら、無理にでも引き剥がします』





『はーい!だいじょーぶですよ、お師匠サマ!ね、天雅?』





「ふふっ、そうだね…ん?」






ふと、天雅が立ち止まり、随分遠くなったアカデミアを振り返った。

必然的に、魔術師師弟も立ち止まり、不思議そうな顔で天雅を見る。






『天雅?』





『どうか、なさいましたか?』





「…誰かに見られてるような気がしたんだけど…気のせいだったみたい」





『もしかして、天雅にデュエルを挑もうとしてる子かも!』





「デュエルだったら、断る理由はないね!どんと来い!って感じかな?」





『きゃーっ!天雅格好良いーっ!』





『やれやれ…』






その後、今しがた感じた視線の事もすぐに忘れ、天雅達は笑い合いながら、レッド寮へと帰って行った。



アカデミアの屋上に、自分達を遠目に見る人影の存在に気付かずに…






























夜中…

昨晩とは違い、僅かに欠けていた自身を取り戻した、完全な満月が、島全土を明るく照らし上げている。



生徒達が眠りに就いている中、レッド寮の一室、天雅の部屋だけは、未だ明かりが点いていた。

机に向き合う天雅は、卓上に数々のカードを広げ、デッキの調整に勤しんでいる。

すると、一段落着いたのか、天雅が椅子に凭れ、両腕を天井に突き出し、背筋をグッと伸ばした。






『天雅様、そろそろお休みになった方が宜しいかと…明日の授業に支障が出てしまいます』





「ん…そうだね…そうしよう、かな…?」






相当眠いのか、天雅の目もとろんとしている。

口元に手を当て、くあっと欠伸をした。






『おっきい欠伸…天雅眠い?』





「そだね…いつもより、眠い…かも…体育あったから…」





『では、尚更お休みになられないと…』





「うん…もう寝る…」






机に広げられたカード達を、1枚1枚丁寧に重ねていく。

そして最後に、魔術師師弟のカードを手に取った。

そのカードを見て、ふわりと微笑むと、後ろに立つ2人を振り返る。






「2人共、明日もよろしく。頑張ろうね?」





『はっ!』





『もちろん!いっぱい楽しいデュエルしようね!』






笑顔で答えてくれた2人に、天雅もにこりと微笑むと、手に持っていた彼らのカードをデッキの上に重ね、デッキを机に置いた。

睡魔のせいか、いつもより重い体を引き摺り、天雅はベッドに腰を下ろす。

そのままベッドに横になろうとした。










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