dream =short=

□君たちが
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「起立、礼!」






日直の号令で、教室にいた生徒達が立ち上がり、教卓の隣に立つ教師に合わせるように、しかしやや大雑把に頭を下げた。

教師が教室から出ていくと、今は昼休みのため、生徒達は一気に騒がしくなり、それぞれの友人達と昼食を食べ始めたり、購買部や食堂へ走り出す。



そんな中、ただ1人、腕を枕にし、机に突っ伏して動かない生徒が。

茶色いショートカットで、制服を思い切り着崩しているこの女子。

名をシェスという。

スースーと寝息を立て、爆睡中の彼女を、クラスメイトの1人が、彼女の肩を揺すって起こそうとする。






「シェス、起きなって!もうとっくに授業終わったよ?」





「…んぁ…?……マジっすか…?」






一応起きたようだが、まだ寝惚けているシェスに、友人は呆れ顔に溜め息をセットで、マジっすよと返してやった。

もぞもぞと上体を起こし、くぁっと1つ、大きな欠伸をし、とろんとした目を擦る。

すると友人がシェスの顔を覗き込み、いきなり小さく吹き出した。

どうしたのかと、シェスは目の前に立つ友人を見上げる。






「シェスっ、顔に制服の跡付いてる…っ!」





「うぉ?マジで?…ま、いっか」





「って、いいのかい…」






呆れて再び溜め息を吐く友人に、僅かに赤くなっている頬をそのまま、シェスはにかっと笑うと、すぐにその顔は、何かを思い出したような物になる。

勿論、友人はそれに気付く。






「どした?」





「いやー、今日後輩とお昼食べる約束してたの思い出してさー」






危ない危ないと、シェスは、鞄から弁当の包みと、更には、綺麗にラッピングされた、おそらくプレゼントであろう小さい直方体の箱を取り出した。

無論、友人もその箱に目が行く訳で。






「何々?いつもの中等部の目付き悪い後輩君へのプレゼントかい?」





「まーね。あの子今日誕生日らしくてさ、昨日初等部の後輩と急いで買いに行ったんだー」





「あんた、初等部にも知り合いいるの?相変わらず顔広いわねー?」





「それがあたしの長所ですから」






シェスは友人にそれじゃねと言い残し、小走りで教室を後にした。






























その後、3分と掛からずに、シェスは、高等部や中等部とは別に存在する、初等部の校舎へ足を踏み入れ、後輩の待つ教室へと向かった。

閉められた教室前方のドアを開け、後輩の姿を探す。






「おーい、サクちゃんいるー??」





「あ!シェスさん!」






シェスの呼び掛けに、教室の後ろの席にいた、緋色の髪の、シェスがサクと呼んだ女子生徒が立ち上がり、彼女の元へ近付いてきた。

彼女の手には、シェスと同じく、弁当の包みとラッピングされたプレゼントがある。

まさか高等部の人間がここに来るとは思わなかったらしい周囲の生徒達は、目を丸くしてシェス達を見ていた。






「待たせてごめんねー。それじゃ、あの子達に会いに行こうか?」





「はい!」






笑顔で返事をするサクに、シェスも、自然と頬が緩むのを感じながら、サクの教室を後にし、目的地へと赴く事にした。






























「やっほー2人共!待たせたな!!」






初等部の屋上へ続く鉄製の、やや錆びた扉を開けるや否や、シェスは満面の笑顔でそう言った。

既に屋上にいた2人は、地面に腰を下ろしたまま、呆れた顔で彼女と、後ろにいるサクを見る。






「ったく、今日は一段と遅いな」





「どうせ、シェスが教室で居眠りでもしてたんだろ?いつもの事じゃねぇか」






この2人、顔も性格も妙にそっくりだが、兄弟とか親戚とか、血縁者ですらないのだ。

それでありながら、ここまで似ているとなると、奇跡と言っても過言ではないだろう。






「あらやだ。クロノには全部お見通し?」





「お前の昼寝は最早恒例だろうが」






苛立ちを隠そうともしないで、クロノはシェスを睨むが、シェス自身、この状況には慣れているので、大して気にした様子はない。

ちなみにクロノにそっくりな彼は、シルバーという。

若干シルバーの方が物静かなのである。






「まぁまぁ、そう怒らないでくださいよ、先輩?」





「そーだそーだぁ!」





「ちょっとは反省しやがれっ!!」






サクがせっかくクロノを落ち着かせようとしたのに、シェスが変な所で口を挟んだおかげで、クロノの怒りのボルテージは更に上昇する。

そんな彼らの様子に、シルバーは呆れて人知れず溜め息を吐いた。






「むーぅ…仕方ないなぁ…これあげるから許してくれぃ!」





「は?」






不機嫌なクロノの前にしゃがみ込み、シェスは笑顔で、例の箱を彼に差し出した。

一方の本人は、差し出された箱とシェスの顔を交互に見返している。

そんな様子を見兼ねたサクが、クロノに一言。






「誕生日プレゼントですよ、それ。自分の誕生日も忘れちゃったんですかー?」





「え…あっ…!」






サクの言葉で、つい今の今まで忘れていた自身の誕生日。

それをこの2人はしっかり覚えていてくれたのかと、クロノは少しばかり感動を覚えた。






「はい、シルバーにもちゃんとあるよ。僕様からね」





「…知ってたのかよ?」





「まぁね。シェスさんに聞いたんだけどさ」






クロノと同様に、サクからプレゼントを受け取ったシルバーは、照れ臭いのか、彼女からぷいっと顔を背けた。

僅かに髪の間から覗く頬が、少し赤くなっていたのに気付くと、サクは嬉しそうに笑った。










君たちが
生まれた
この日を



((心から祝福しよう))
((Happy Birthday to You !!))










fin…









何を贈ったのかは
ご想像におまかせ


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