dream =short=
□あこがれ
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某日
『マトマの実を買ってこいだぁ?』
《別に買ってこい何て言ってねぇよ》
早朝からポケモンセンターの食堂で何やら誰かと言い合いをしている小さな人影――サク。相手は相棒であるマグマラシの琥珀。今日も今日とて無駄なことで言い争っている模様。
『大体琥珀は辛党過ぎるの。いい加減に加減を知らないと、そのうち痛い目を見るよ?』
《毎日砂糖の塊を食ってるお前に言われたくない》
『何だとっ!?』
ガタリと立ち上がったサクの手に握られていたのは――所謂ペロペロキャンディー(因みにオレンジ)。琥珀はいきり立ったサクを鼻で笑うと再びフードを食べはじめる。
《とにもかくにも、僕は辛いもん食べたいだけ。フィラでも良いから》
『ったく……ん?』
座った彼女の視界の端をかすめた白と黒。窓の外を歩いていたのは、白い毛並みのポケモンと、蒼いバンダナを巻いた女の子。
――――サクはその両方に見覚えがあった。
《あいつら……》
『シェスさんだ!』
再び勢いよく立ち上がると、今度は目をキラキラさせながら琥珀に向き直った。
『琥珀、行くよ!!』
《めんどくせっ》
悪態をつきながらもしっかりついていく琥珀。二人がバタバタとポケモンセンターから飛び出すと、ふっと噂の彼女が振り返る。
――――元ホウエンチャンピオンであるシェス……その人だった。
『シェスさんこんにちはー!』
「サクちゃん!」
相棒であるアブソルのルーンのブラッシングをしていたシェスは、視界にサクを捉えるとふわりと笑う。
サクがルーンにも挨拶をすれば、彼女もニコリと笑ってくれた。
『珍しいですね。貴女がこんなところにいるなんて』
「協会に行く途中だったの」
『《協会?》』
キョトンとしたサクと琥珀の言葉が被る。シェスは何やらバッグから封筒を取り出しサクに渡した。
『えーっと何々?「ポケモンと人間の食料について」……?』
「そ!」
サクはざっとその封筒に入っていた書類を見て「あぁ」と頷いた。
『うちの琥珀はフードが好きみたいですけど、黒影は好きじゃないみたいだったな……凄いですね。流石はシェスさん!』
「あたしだけじゃないよ?ヒビキとコトネとクロノの4人で考えたんだ!」
「協会に直接直談判をする」と言い燃えているシェスを憧れの眼差しで見つめるサクと、それを呆れたように眺める琥珀。
「じゃ! あたし達もう行くね」
『はい! その案、通るように祈ってますね』
「是が非でも押し通すけどね」
そう言ってシェスはルーンに跨ると、一度琥珀に視線を移し、サクを振り返り真面目な顔で言った。
「サクちゃんも、ジム戦頑張ってね」
『ありがとうございます。いつか絶対、貴女に追いついて見せますから』
どちらともなくニヤリと笑い、直後ルーンが風の如く駆けだした。
あっという間に見えなくなってしまった彼ら。サクはふっと笑い呟いた。
『仕方ないからマトマの実、探してあげる』
《?》
憧れのヒト
(あの話通ったらポケセン大わらわだろうねー)
(だろうな)