dream =short=
□其の一
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「今だ琥珀!≪かえんぐるま≫!!」
猛火を纏ったマグマラシ…琥珀は、帽子の子供…サクの声を聞き、野生のコラッタに突進する。
強烈な一撃の前に、コラッタは容易く数メートル先に吹っ飛ばされた。
サクは透かさず、手に持っていた空のモンスターボールを、そのコラッタに投げつける。
「これで…どうだぁっ!!」
ボールは見事コラッタに命中。
赤い光に包まれたコラッタは、そのままボールの中に収まった。
…かと思いきや、再びボールが開き、中からコラッタが飛び出す。
そしてコラッタはそのまま草むらへと姿を消した。
それを見たサクと琥珀は、暫く沈黙のまま、その場に立ち竦む。
やがてその沈黙は、サクの叫びによって破られた。
「だあぁぁああっ!!また失敗かぁっ!!」
『これでとうとう20回連続で失敗か…サク、お前…捕獲の才能ないんじゃね?』
「うるさいよ琥珀。次だ次!!」
新たな獲物を、血眼になって探すパートナーに、琥珀は人知れず嘆息した。
するとその時、上空から彼らを呼ぶ声が響いた。
何事かと上空を見上げたサクの前に、良く見知った人物が降り立つ。
「やっほー2人共!元気してる?」
「シェスさん!!」
見知った人物…シェスは、自分が今まで乗っていたポケモン…カイリューにお礼を言うと、そのままサクの元に歩み寄る。
同じくサクも、彼女の元へ駆け寄り、その後を琥珀が追い掛ける。
「こんにちはシェスさん!!いつの間にカイリューゲットしたんですか?」
「ん?いやいや、この子は知り合いの手持ち。まあ、想像つくとは思うけど」
「……あー…あのドラゴン使いですか」
「ピンポーン!その通り。ところでサクちゃん、今時間ある?」
ちょっと付き合って欲しいんだけど…と言葉を繋げたシェス。
その言葉に、サクは勿論と即答しようとしたが、前に出てきた琥珀に遮られる。
『馬鹿かお前。捕獲と僕の特訓どうすんだよ?』
「うっ…な、べ、別に捕獲なら今度でもいいじゃん!」
『捕獲はともかく、僕の特訓まで放棄すんな!』
そのまま口喧嘩に発展してきた2人の間に、シェスがまあまあと仲裁。
シェスが後ろにいるカイリューに、散歩してきていいよと言うと、カイリューは元気良く大空へ飛び立った。
「話を聞いてると、2人はさっきまで捕獲の特訓してたんだ?」
「あ、はい…」
『もう20回も失敗してんだぜ?それと僕の特訓でもある』
そこまで聞いて、なるほどと頷いたシェスは、少し考えるような仕草をする。
数秒考えて、何か結論が出たらしく、シェスはニッと笑って2人に向き直った。
「琥珀君や、実は野生のポケモンより楽しめるであろう相手がいるんだけど…どう?戦ってみたくない?」
『…それ、本当だろうな?』
「もちろん」
シェスの言葉に、琥珀は不敵な笑みを浮かべると、上等だ、やってやると答えた。
そんな彼によしよしと頷いたシェスは、続いてサクに向き直る。
「その相手の所に行く前に、サクちゃんの捕獲の腕を確認しないとね」
「え?」
「ポケモン図鑑。オーキド博士から貰って集めてくれって言われてんでしょ?だから、先輩からのちょっとしたアドバイスってところかな?」
パチンとウインクしてみせたシェスに、サクは元気良く頷き、よろしくお願いしますと頭を下げた。
その後サクは、再び草むらに入り、新たに野生のポケモンの捕獲に勤しんでいた。
今度はその斜め後ろに、シェスの姿もある。
ちなみにシェスは、必要と判断した時以外は手を出さないと宣言している。
そして今、サクの目の前には、野生のウパーの姿があった。
ウパーは水タイプであり地面タイプ、対する琥珀は炎タイプ。
タイプだけで見れば、琥珀の方が圧倒不利だが、ジム戦などで経験を積んでいる琥珀なら、難なく突破できるだろう。
「(とはいえ、油断は大敵。シェスさんみたいに、相手の急所を正確に掴むのはまだ難しい…けど…)いくよ琥珀!」
『ああ、いつでもいいぜ!!』
相棒の声を聞き、サクはいよいよ攻撃の命令を下す。
琥珀はウパーの動きを見逃さず、鋭く睨みつけていた。
「琥珀、≪でんこうせっか≫!!」
『行くぜ…!!』
勢い良く飛び出した琥珀の爪が、ウパーの胴部に見事命中。
しかも運良く、そこが急所だったらしく、ウパーはその一撃で既に起き上がれなくなっていた。
これは願ってもみない大チャンス。
サクは、シェスに言われた事を頭の中で反復しながら、手に持っていたボールを構えた。
―――サクちゃん、ボール投げる時に、とりあえず当たれば良いとか思ってるっしょ?
―――え?ダメなんですか??
―――ダメっていうか、的確に相手の弱点とか、エネルギーが集中する所、つまり一般で言う急所ってやつね。そこを狙うと尚良いよ。
―――でも、僕、シェスさんみたいに急所なんて見分けられないですよ。
―――んー…ま、最初だから、運に任せて戦ってみな?それで急所に当たれば良し。当たらなかったら…
―――当たらなかったら…?
―――取りあえずあちこち攻撃して、不自然にポケモンが庇ってるとこ、狙ってみるといいよ。大抵そこが急所だから。
「(まだ捕獲に関して初心者な僕が見分けられるとは、到底思えなかったけど、何度もバトルしてる間に、何となく分かるようになった気がする!)」
先程琥珀が攻撃した場所、ウパーの胴部を狙い、サクはボールを投じた。
いつもと同じく、赤い光に包まれたウパーが、ボールに吸い込まれるように収まる。
ボールが、ゆらゆらと揺れる…まだ中のウパーが抵抗している証拠だ。
だが、その揺れも徐々に弱くなり、終いにはとうとう停止し、その場に静かに佇んでいた。
それを見たサクは一瞬の静寂をおいて、その顔に笑顔を零す。
「や…やったぁっ!!とうとう捕まえた!!」
『やれやれ…子供みたいにはしゃぐなよ。僕が恥ずかしい』
隣で皮肉る琥珀だが、その表情は少しばかり嬉しそうな、達成感に溢れたような物だった。
その様子を見ていたシェスも、何処となく嬉しそうである。
サクはシェスに向き直り、満面の笑顔で頭を下げた。
「シェスさん、ありがとうございました!おかげで初捕獲成功です!!」
「いえいえ、どういたしまして。役に立てたなら本望さ」